<2021年4月家族会報告>
4月17日(土)1時半~5時 24名参加(19家族) 初参加4名(2家族)
講師:稲村厚 司法書士(認定NPO法人ワンデーポート理事長)
「依存問題と生活危機を乗り越えるために」 印刷資料3枚あり。
1 自己紹介
2 最近の依存と借金の問題
3 支援の順序について
4 債務整理の一般的な方法
5 貸金業法21条の取り立て規制
6 依存問題の債務整理の留意点
7 再発防止にむけて
8 依存問題で必要な社会資源とケースワーク
9 金銭管理について
10 ケースワークとコーディネート
1 まず自己紹介です。私は司法書士という仕事に携わって30年になります。私のところでは債務整理、借金の整理を主にやっています。最近中公新書で「サラ金の歴史」という本が出ました。(小島揚平著、副題:消費者金融と日本社会)大変面白い本で、ニュートラルな立場で書かれています。依存問題と借金とは切り離せないものがありますが、30年前平成が始まった当時からサラ金の歴史を見ると時代が分かります。平成2年に全国の自己破産の件数が年間2万人。平成4年には倍増して4万人になりました。実はサラ金は1960年代からありまして、高度経成長期のサラリーマンに「遊ぶためのお金を貸しますよ」というものだったそうです。一流企業のサラリーマンに小口の貸し出しをする。「出世するサラリーマンは遊ぶものだ」ということが言われていたらしいですね。私が関わりだした平成になるともう生活費が足りないという人たちが借りていたんですが、最初は遊ぶためのお金だったことは明らかです。そうなるとギャンブルするためにサラ金から借りると言うのは、あながち間違いではないですね(笑)。サラ金は遊興費のためのものだし遊べるくらいの人でないと貸さなかった。それがバブル崩壊後、平成くらいから生活が厳しくなった人たちに貸し始めたのです。自己破産が増えてくる。最終的に平成15年くらいには24万人になったのです。今はだいたい年間8万人くらい。そう考えると借金の問題は日本全体の状況と密接にからんでいて、依存問題も実はそうです。
私はギャンブル依存の人を中心に支援しているのですが、ギャンブルも変わってきました。2000年に「ワンデーポート」ができました。日本で初めてのギャンブル依存のための施設で横浜市瀬谷区にあるんですが。当事者である中村が立ち上げる時に手伝い、それから20年付き合ってきました。20年前のギャンブルはパチンコ・パチスロが非常に賭け率がよかったのです。一日で10万20万を失うこともあった。今は規制が入ってパチンコ一日中やっても数万位です。最近パチンコで10万失いましたと言う人は多分パチンコ以外にも何か使ってるなと思いますよ。むしろ今は一気にお金がなくなるのは公営ギャンブルで、青天井で10万でも20万でも賭けることができます。失ったお金を取り返そうとして100万でも賭けることができるので、それで失敗しましたという人が多いです。私は「ワンデーポート」が法人化するときに理事長になったのですが、今や私の事務所にはギャンブルの債務者しか来なくなったのが現状です。最近はコロナ関係で仕事失ったとかいう方も来ますけど、この20年依存と借金の問題に関わってきた。そういう関係で今日ここにきているわけです。
2 もともとギャンブルはパチンコ・パチスロがメインだったんですけど、IR・カジノの問題が出た時に、パチンコ業界は世間のパッシングにあったわけです。パチンコ業界は自主的に規制をかけた。警察庁が監督していることもあって、あまりお金を賭けられなくなったのです。ところが公営ギャンブルは野放し。かつて貸金業規制法があって、あまりにも貸し過ぎて自己破産が多くなったので、サラ金業界もパッシングされたのです。規制が入って「年収の三分の一までしか貸しちゃダメ」という総量規制になったのが10年ちょっと前。いったん問題は沈静化します。お金さえ出さなければ借金問題はあまり起こらないのです。10年前にはギャンブル依存でも借金で困っていますと言う人は減ったんですよ。家族会をやっても借金の問題で困っている人はあまりいなかった。ところがこの2,3年一気に増えました。一つには銀行がサラ金に変わって目的を特定しない個人金融に進出するのを決めたのです。元々は銀行は消費者金融に貸し出していたのです。消費者金融があまり貸さなくなったので、今は大手銀行が個人ローンを始めて、年収の三分の一という規制は消費者金融にしかかからないので、いくらでも貸せるのです。といっても本人の信用が必要なので、公務員とか一部上場企業に勤めていたりすると、無担保で一千万位借りられます。私が今支援している人で、40代50代の方、700万~1200万位まで住宅ローン以外ですよ、それくらいの借金を抱えています。それでも自己破産せず分割払いでなんとか返済しています。中には退職金で一括払いで和解しますと言うケースもあります。そうなると老後の資金が問題になるので、夫婦間調整を奥様も来ていただいてどうやってお金を工面するか相談します。
今は借金の問題はかなり深刻です。かなり個人あての貸し出しが多くて。銀行の規制はどうなんだと。公営ギャンブルの規制もどうなんだと。競馬のCMも一流の役者を使ってやっています。実は各業界がヘルプラインといって電話相談をやっているんですが、私はボート業界のアドバイザーなんです。先日業界の人に話を聞いたら、ボートは明らかにオタク狙いんなんです。ボートの宣伝を見てもらうと女の子のレーサーですよ、アイドル化しているんです。あるレースでは一位になったレーサーと(今はできないですけど)握手ができると。AKB商法ですよ。一位になったレーサーと握手できる、するとオタク系の人は全部に賭ける。必ず誰かと握手できますから。そういう商法をやっているんです。業界の戦略というか努力というか。最近は朝からそういうCMを流しています。競輪しかり。ですからこれから数年酷くなるんじゃないかという気がします。
しかも気軽に賭けられる。今までは場外馬券売り場に行かなきゃならなかった。今はパソコンやスマホからも賭けられます。スマホには、公営ギャンブル全てに賭けられるというサイトがあるんです。そうなると家にいながらギャンブルができる、公営なら上限が決まってないのでいくらでも賭けられるのですね。銀行口座と直結していて、お金が入っていれば賭けられるそうです。私はやらないので相談者から聞いた話ですけど。勝ってお金を持っていればいいけど、だいたいギャンブルする人は儲けたお金は次のギャンブルに使います。絶対残らないです。もともとは元に戻そうと思ってやるんですが、使っちゃうから残らない。そういうものがはびこっている上にこれからカジノが出来るとかいう話ですが、実際はなくてもインターネットカジノがあります。インターネットだと国境もないので。私はだから家計としてどういうふうに管理するかとか、一人暮らしのお子さんにもどういう家計教育をするとか、そう言う方がスマートじゃないかと思いますね。「ギャンブルやるなよ」とか、「薬物やるなよ」とかいうより、むしろ「正しい家計管理をやろう」という方が話が通るんじゃないかと思います。
3 支援の順序について。借金の問題と依存の問題。生活の問題と依存の問題。どこから手を付けていいかわからない、ご家族もそうだと思うんですね。「元々依存の問題があるのだから自助グループとか施設とか」という話になりますが、でもそう簡単につながるか。また明日の生活はどうするの。依存症に詳しい支援者はすぐ施設に入れろとか、すぐ入院させなきゃとかいいますが、果たしてそれでうまくいくんだろうか。私の場合借金があってギャンブル問題があるケースです。「まずは自助グループに行って、ワンデーポートという施設に入って、施設に入って落ち着いたら債務整理すればいいよ」と。基本はそれでいいと思いますよ。でも督促が来ていて家族も混乱している時にはそれだけではすまないんですよね。私は悩みましていろんな支援の方とお話する機会があって、仙台の方とお話しました。「犯罪加害者の家族の支援」をしている人に会いました。殺人事件だったりすると被害者と加害者があり、加害者家族はそこに住めなくなってしまいます。マスコミが押しかけてきて取材攻勢。家族は関係ないのにです。日本は加害者家族に対しては支援制度がないです。韓国はあります。ヨーロッパもあります。アメリカもあるのです。日本はない。マスコミやネットに晒されるだけ。そういうことに立ち上がった若い人がいて、大活躍しています。私がどこから支援したらいいか分からない時があると言ったら、彼女いうには「緊急避難ですよ。生活危機ですから。そこをまず手当しなければ、医療や心理につながる前に生活危機を脱することが先に決まってるじゃないですか」というわけです。震災の時がそうですよね、生きるか死ぬかという状況ではまず生きることが大事なんです。そう考えればスッキリするんです。現状で誰がどのように困っているのか、家族が困っているなら安全にする。本人が危機にあるなら安全な状態にする。それが落ち着いたら心理とか医療に繋げる。という考え方でいいのだと思います。例えば警察に捕まってしまいました。それで家族が安全でなければ。保釈金を積んで出てきても、本人が安全でなければ。本人の安全のためにご家族が危機に陥るのならそんな選択はないです。どちらも安全にすることが、まず相談で大事な所だなと納得したわけです。
私は千葉市と千葉県の精神保健福祉センターで、ギャンブル相談の相談員をやっています。1か月に1回なんですが、全く初期相談なのでこういう相談に対応します。司法書士として債務整理をやるのは最後の段階なんですが、そこで問題になるのは借金が問題なのか依存が問題なのか。借金で生活が脅かされているのならそれを解決しないとなかなか本人納得しません。昔はそんなこと言っていませんでした。「借金は依存の結果としてある問題だから、依存を先に克服しないと」。そうじゃないなと今は思うのです。悩むのは、どうしてもギャンブルをしてしまう人の場合、借金整理をしてしまうとまた闇金から借りましたとか。実は債務整理をするとブラックリストに載りますので一定期間ですが一般のところから借り入れできなくなります。人によっては闇金という違法業者から借りる恐れがあったり、親戚中や友達から借りたりとか、会社で横領するとかになります。借金にこだわっている本人にそれは後で良いよと言ってもなかなか納得いかないのです。そこで「借金の督促は止まるけど本格的整理はなかなかやらない」という、中途半端なやり方をやり始めました。
4 債務整理の一般的な方法。私たちは相談を受けて受任すると債権者に「受任通知」という通知を送ります。そうすると我々が通知した債権者は本人に接触してはいけない事になります。もしそれに違反すれば業務停止になります。だから受任通知だけ出しておいて、債務整理の方法を遅らせるのです。本格的な債務整理として「自己破産」にするか、これは裁判所に全部免責をもらって債務をなくす方法です。それとも「任意整理」として将来利息を全部カットして可能な金額を分割払いにするか。これを半年ぐらい決めないで置く。督促がこなくなるから半年ぐらいは生活が落ち着くのを待つ。それから医療なり心理なりの次の段階につないで落ち着いたところで、じゃあどうしましょうかと決めればいいだろうと。
私は返済金を管理する場合、例えば300万借金していて、1か月5万円くらいなら返済できますという人なら、5万円ずつ預かることにしています。本人から私が5万円預かって分配するのです。それがなぜいいかというと、毎月5万円入ってくるときは本人が順調だとわかるのです。入ってこないと何かあるなとすぐわかる。それと来月から返済金を預かるとして支払いは半年後から始める。半年分のプールがあるので、仮に本人がまたギャンブルにハマってお金が足りなくなったとしても、タメがあるから返済は困らないし場合によっては生活費にも戻せるよと。一定のセーフティネットになるわけです。これはいい方法だなと思ってやっていたら、ものすごい数になってしまいました。うちの担当職員は毎月月末になるとヒーヒーいいながらネットで返済をしていますけど。このようにシステム化できると、ご家族も本人もうちに一定の金額を積んでおけば、安心です。本人がお金を持っていると不安なのでご家族が返済するとしても、毎月5、6社返すのがだんだん大変になってきて、なんでこんな苦労しなきゃならないのよと、家族関係が悪くなるんですよね。これは非常にうまく行っています。
5 「貸金業法21条の取り立て規制」というものがあります。これはご家族のためにできた法律です。一部書き出しました。「張り紙等で借金について外部に知らしめる行為」昔は「金返せ」などの張り紙をして近所に知らしめることをやっていたんです。それは一切禁止です。昔は夜討ち朝駆けで大騒ぎということもあったのですが、今は時間規制があり夜9時から朝8時までは取り立てできないんです。「債務者に代わって返済を要求させる行為」親であってもお子さんであってもご夫婦でも、代って払ってくださいと言ったらアウトです。ご家族に請求できないんです。それは明確にされました。「他からの借り入れを要求する行為」他から借りて返せといったら違反で、これを金融庁に告発すると業務停止になります。アイフルがこれで業務停止になりました。「取り立てへの協力を拒否している者への協力要請」というのは、例えば家に電話がかかってきた時本人がいなくて親御さんが出たとする。本人が帰ってきたらこっちへ電話するように言ってくださいと言われます。「お断りします。」これでいいんです。お断りは取り立てへの協力を拒否したことになります。この人に協力要請はしちゃいけない。だから断って下さいね。これを知らないで電話させますなんて言っちゃうと向こうの思うつぼです。「受任通知後の請求行為」というのは、さっきいった通知後に請求してはいけないことです。非常に規制は厳しいので、お金に関してはご家族は完璧に守られているのです。これはあまり知られていなくて、一生懸命慌てて返してしまうことがよくあるのです。またよくあるのは、サラ金は利息が高いので6ヵ月も放置するというと利息がかさむじゃないかと怒られますが、将来利息はカットされるんですよ。経過利息はとられたりするんですけどわずかです。将来利息を払っていると2倍くらいになるんです。それに比べれば大したことないんです。自己破産でも同じことです。そいういことは知っておいてもらえればと思います。
6 依存問題の債務整理の留意点。今言った生活危機から脱しても借金はすぐには解決しない方法がいいです。さっき田中代表とも話しましたが、基本的に施設に入ったら債務整理は一定の時期まではしない、まず施設で依存問題に専念してもらって、社会参加するときに債務整理しましょうというのが基本です。ただ最近は督促は止めても訴訟を起こしてくることがあるんですね。起こしても生活保護かかっていたりすると取る物がないから放っておけばいいんですけど。本人としては動揺するので、施設在中に自己破産というケースもあります。でもすぐにやることはまずないですね。
7 再発防止に向けて。最近は薬物依存、アルコール依存、ギャンブル依存、買い物依存、また性依存とか、何でもかんでも依存にする傾向があります。それでいいのかという本も出ています。人間は依存しないと生きていけないものですから依存が悪いわけではない。ただ過度な依存で問題が起きているのなら、それは手を入れないと生活が苦しくなります。マスコミなどであおられると、依存の結果として問題が起きているのだと思いがちです。例えば「社会不適応」仕事をすぐ辞めちゃうとか虐められるとか。「経済問題」借金ですね。「家庭内の人間関係」は、コミュニケーションがおかしくなる。何度も問題を起こすからまた何かやっていないかと常に本人の居所をつかもうとしつこくラインするとか。「仕事への影響」仕事を転々とするとか続かないとか。「引きこもり」ゲーム依存で引きこもっているとか。「鬱状態」アルコールがキッカケの場合があります。「孤立や孤独」これも依存がひきおこしたものだ。という風に考えがちです。本当にそうなんでしょうか。問題が起こった時、依存がその原因だと考えたほうが納得感があったり安心だったりします。でもよくよく見てみると依存の原因は、ご家族間のコミュニケーション不足だったり、高圧的な関係だったり、依存問題が明らかになる前からなかったですか。もしかしたらそっちが先で、それを避けるために依存しているのかもしれませんよ、というわけです。仕事をやめさせられるのは、アルコールでしばしば休むからだと思いがちなんですが、もともと長続きした過去なんかなかったと。仕事が長続きしない自分への無価値観が、自分なんか価値がないんだという思いが、アルコール問題を引き起こしていませんか。と私はいいたいのです。慎重であるべきです。依存症だと思ってしまうと依存行為だけに注意が集中してしまって。でも本人は別の辛さをもっていて、それを避けるために依存に走る。その避ける場所がなくなってしまったらこの人どうやって生きていくの、ということがあるのです。だから本当に辛い所を聞き出さないといけないし、本人も気づいていないことがあるのです。本人も忘れちゃうことがあります。PTSDとか、あまりにショックなことは忘れたいじゃないですか。直面しないように別のことにすり替えちゃう。慎重に見ていくと、本人は人間関係が苦手で、子供の時からいじめられたりしていて日常的に辛くて、人間に対する恐怖感をもっていたりして、そちらをしっかりケアしてあげないと、依存問題はなくならないですね。依存がその人を助けていたということ。その問題をきちんと対処してあげれば、何も依存問題にいかなくても自然になくなっちゃうんです。もちろん習慣化していますからそれを変えるために何かやらなきゃいけないんですけど。そういう本当の問題を意識したほうがいいですよと、私は結構言っています。
これを丁寧にやってくれるお医者さんと、依存問題だけしかやらない医者とがいるので気をつけないと。相模原ダルクはいいお医者さんと連携しているから大丈夫ですが。ホームページなんかにデカデカと出している法律家と医者は気を付けたほうがいいですよ。だって評判がよければ広告など出す必要ないですもの。デカデカした広告はだいだい嘘で、たいていそういう所で痛い目にあってきます。元々の問題、本人の弱さや自己肯定感の低さというか、そういうことを解決することが結果的に依存のリスクを減らすことになる。同時に依存先をふやすとういうか、そうじゃないものに、問題になる依存ではなく、良く趣味とかいいますけど、そういうものを見つけていくことが必要になります。特にギャンブルとかゲームとか買い物などプロセス依存と言われるものは、余暇の問題です。かみ砕いていえば時間とお金の問題なんですよ。それだけやめなさいと言っても、時間のつぶし方を知らない。それを一緒に考えてあげないとそう簡単に消えないですよ。私の所では一応落ち着いた人は、面談して次に何に挑戦するか、やってみることを提案します。たとえばウクレレ教室に行ってみたら面白くなって、自分でサークルを作ってそれで安定した人がいます。「シャル・ウイ・ダンス」みたいですけど。私もこの年になって考えました。なんとなく過ごすよりも、この時間はこれで過ごすみたいな、決められたものがあるといいですね。
最近出た本で「スマホ脳」ってご存じですか。すごくいい本ですよ、スウェーデンの医者が書いていて世界的なベストセラーになっていて、本屋に山積みです。(新潮新書 アンディシュ・ハンセン著)スマホから離れるには、20分間心拍数をあげるような運動がいいそうです。筋トレでもヨガでもそういうものでストレスを解消することです。モノクロにしましょうという提案もあります。だいたいどのスマホも白黒にできるので私もやってみたら、ついに家に忘れるほどになりました。見にくいし必要な時しか見なくなりました。ものすごくいい本です。だってスマホが出て10年しかたってないのです、10年で人間生活をこんなに支配した物ってないですよ。昔は電話番号も電話帳で調べたものですが、今は全部スマホが記憶しています。電話番号覚えていないですよね。必要ないと思うと脳は働かなくなるので。このままいくとスマホ頼りになって、相当マズイことになるんじゃないかと言っています。スティーブ・ジョブスなどはある年齢になるまでは子供にスマホを触らせなかったといいます。作っていた人がわかっていたんですね。今あえて余暇の使い方を考えるべきなのは、依存問題を持つ持たないに関わらず、社会的な問題じゃないかと思います。
同じように育ってもなぜ依存してしまうのか。それは一定の特性があります。いわゆる自閉性。いわゆる多動性。多動性も自閉性の一種だといわれていますが自閉性とはいわゆる集中力の高いことで、他に注意が行かなくなることです。そういう人がはまりやすいという傾向はあります。ご家族は本人の特性を理解して付き合っていくことがコツだと思います。出来ないことをけなしても、本人傷つくだけです。依存問題を持っている人って、話してみると、認められたいと言う気持ちを持っている人が多いなと感じます。ご家族はそれはなかなか難しいと思います。褒めて伸ばしてということが必要なんですが。ご家族はせめて、けなしたり価値がないとか言わないこと。やっぱダメねとか言わない事。残念だったねと一緒に残念がる、でもよく頑張ったよと認めてあげる。そういう話でいいんじゃないかな。何回失敗してもいいと思うんですよ。必要なのはモチベーション、薬物やアルコールやギャンブルをやめたいと言う気持ちを失わせないこと。あとは何が功を奏するか分からないです。そこは否定しないで背中を押してあげる感じでいいんじゃないかなと思います。
8 依存問題で必要な社会資源とケースワーク。依存問題だけではなくもっと本質的な問題があることもあるので、必要な社会資源は広く考えたらいいだろうと思います。「暮らし・仕事・余暇」を分けて考えています。暮らしというのは、朝起きて食事して夜は寝るということです。それから仕事があること。家族が望んでいる仕事ではなくてもいいと思います。正社員でバリバリ働くというのは無理な人もいます。週何回かのバイトという場合もあります。障害年金をもらいながら、それをカバーする感じで仕事すると言うのもありだと思います。「ケースワークの必要性」ご家族が客観的に見ることは難しいと思います。施設や相談先に聞いてやってもらう方がいいと思います。「コーディネートの必要」。こちらで優先順位を決めてあげないと結構変なことをするんですよ。うっかりすると5年後10年後でいいことをやろうとします。そうじゃなくて今は足元のことを固めましょうよと言ってあげる。「余暇支援」ワンデーポートは余暇支援をよくやっていて、ウォーキングだとか、ランニングとか、汗をかくことを大事にしています。釣り部もあります。釣ってきたものは調理をしていた人が料理して食べるとか。施設長はいまボーリングにはまっていて、ゲームとか、電車の写真とるとか、オタク系が多いですよね。アイドルのコンサートに行くとか。それで収まるんならそれでいいと思います。アイドル系を使ったギャンブル業界のイベントは多いのでそこは選択する必要があるんですが。病気を治すだけではなくて、どうやって社会適応するかをケースワークする施設が多いですね。余暇支援もできる施設が好ましいかなと思います。「病院・自助グループ」も施設と同じようなことがいえます。自助グループのミーティング終わった後に、お茶飲んで気楽な話しをするのが結構大事です。最近僕は雑談がいかに大事かってことをコロナの時期に再認識しました。オンラインで会議をやりますと決まることは決まるけど、雑談できないじゃないですか。会議の中で物事を決めるためにも、雑談は集団の文化を築き上げる面がある。この人はどんなことに興味をもっていて、こんな性格だということがわからないと、安心できないでしょう。そういう雑談できる場が必要だと思っていますね。「精神保健福祉センター」は今依存症に関わってきましたけど、場所によって濃淡あります。初期相談はやるけど、継続相談はあまりやらないとか。家族間調整までしてくれるところはあまりありません。 (中略)
9 金銭管理について。金銭管理って窮屈です。こうしなさい、ああしなさいと言いたい所なんですけど、いきなりやってはうまくいかないものです。本人が納得する形で、あるいは本人から提案してもらった方法を試してみる形で、つまり本人中心で押しつけられた感がないやり方の方が長続きします。失敗はします。失敗しても責めないで修正すればいい、柔軟に。ここがまずかったらこう変えていこうと、これはオリジナルで作っていくしかないですね。そして誰が管理するのがいいかというのが問題になる。そもそも金銭管理の在り方が問われていると。サラ金の話をしましたが、あの時代は男性が働いて、女性は専業主婦なんです。だからサラリーマンである男性に貸す。今は共稼ぎが主流です。ダブルインカムです。その場合の金銭管理のやり方はあまり確立されていません。(中略)近未来の家計管理を考えていきたいと思うのです。パチンコ業界とボート業界の人に言ったのは、あなた方は余暇産業でしょ、余暇というのは家計に余裕ができて初めて成り立つ産業です。あなた方が家計管理についての一定のモデルを作らなければいけないよと。それがあなた方の使命じゃないですか、と言ったら結構納得していました。もし作るなら予算を出すとまで言ってくれたので、これは誰かやってくれないかなと、探している所なんですが。社会全体の問題であって、ギャンブル業界がなくなればすべて解決すると言う問題じゃないんですね。新しい時代の新しい問題なので、それに会った我々の工夫も必要なんだなと思います。
10 ケースワークとコーディネート。最終的に自己肯定感の問題です。どのように自己肯定感をあげていくかがすごく重要で、それが孤立と孤独を解消していくことにもなります。支援者や施設側の問題として、丸投げ的な連携ではなくて、関わり続ける関係が必要です。情報共有も大事です。なかなか完璧な支援者っていないですよ。当事者と相性のいい人をどうみつけるかです。公的な施設では、精神保健福祉センターの職員などは定期的に変わってしまいます。保健所の担当者と2,3年うまくいっていたのに、変わったとたん崩れるということが、実はあるんですよ。それは残念なことではあるけど、次の良い関係を探していくことも必要ですね。「依存症は嘘をつく病気だ」といいますが、私はそうじゃなくて「嘘をつかなくていい環境が与えられてないから」だと思っています。本人にとって安心安全な環境を作ってあげないと。それがまさに自助グループであり施設であると思います。家庭でもそういう環境を作れたらいいなと、簡単ではないですが目指していくべきだろうと。嘘をつかなくていい関係。怒らないで聞いてくれる親。難しいですけどね。「相談は敷居が高い」から「雑談の中からほんとの相談が出てくる」関係へ、それが本当の相談ですよね。実は私の友人が書きまして、「親をおりる」という本、これすごくいいです。(明石紀久男 親をおりる「ひきこもり」支援の現場から 彩流社 2021年3月刊)引きこもりの支援をやられている方です。依存症のご家族にもピッタリです。同じ出版社から私の本「ギャンブル依存と生きる」というのもありますのでお読みいただけたらと思います。
文責:伊藤