<6月家族会報告>

2019年6月15日(土)午後1時半~5時 16名参加(12家族)

講師 水澤都加佐先生(HRI横浜カウンセリングオフィス)

田中 今日は雨の中ありがとうございます。相模原ダルクは開設して10月で満6年になります。水澤先生には開設前からお世話になっており、現在はスタッフの個別のカウンセリングもやっていただいております。この神奈川県で古くから依存症という病気と向き合い関わってきた大先輩です。医師でもない、回復者でもない、カウンセラーとしての先生のお立場からお話をお願いしました。

 

水澤 まず皆さまのお立場を知りたいです。親の立場でいらっしゃっている方おられますか?圧倒的に多いですね。配偶者の方、兄弟の方、お1人ずつですね。最初に申し上げたいことは「依存症になったのは、親のせいでなったのではない」ということです。自分の子育てが間違っていたんじゃないかと思っている親御さんが多いですね。そういう方には、意地悪質問をします。じゃあ教えて下さい、どういう風に育てたら子供が依存症になるんでしょう? 甘やかせたからでしょうか?厳しすぎたからでしょうか?愛情をかけられなかったからですか? 親の謙虚さが言わせるのかもしれませんが、そんなこと思わなくていいですね。子供がインフルエンザになるためにはどうしたらいいでしょう?配偶者を癌にするにはどうしたらいいでしょうか?できないですね。依存症は育て方に原因があるとは思わないでください。

依存症の原因は3つです。たった3つです。第一は「何かを度重なってやって、いい気分にはまる」事です。お酒や薬やギャンブルもいい気分になりますね。旅行にいけばいい気分になりますね。ボーナスが多いとどんと上がりますね。普段では感じないいい気分を感じますね。いい気分は脳の中のドーパミンというホルモンが一時的に多くなるからです。タバコもいい気分にしてくれます4~50%くらい上がります。が長続きはしません。お酒は100%から150%くらい上がります。気分がよくなります、でも効果は持続しません。ある方はパチンコで1日30万くらい儲けたことがあるそうです。しかし日常生活ではそこまで気分が高揚することはないです。さて覚醒剤はどうなると思いますか?覚醒剤は300%から400%も脳内のドーパミンが増えるんです。しかも一回やると3日も4日もホルモン分が持続するそうです。最近捕まった俳優さんはコカインでした。コカインは覚醒剤と同じくらい増えるけど持続はしないそうですね。

依存症は脳の病気です。依存には科学物質依存、ギャンブルなど過程依存、そして人間関係へののめり込み、共依存。「あなたのためなら死んでもいいわ」という本を書きましたけど、子供にのめりこむ親はいますね。三つの依存症があります。それぞれののめり込む時に効果があります。またやりたくなります。一度味をしめてしまうと危ないですね。

第2は「遺伝的に早くのめり込みやすくなる」ことです。お酒をのむ時最初はあまりおいしくないですね。ですが遺伝要素のある人は早くはまります。瞬く間に高揚感を得られるようになります。高揚感をすぐ学習してしまいます。この傾向は、両親の一人が何らかの依存症ですと、依存症がない場合と比べて子供は4倍依存症になる可能性が高いです。両親が二人とも依存症ですと、8倍から9倍高いといわれています。だから遺伝要素のある家系は、子供のうちから危ないよと教えてあげることですね。私の家系にもアルコールやギャンブルの依存症の要素がありますから、だから家は危ない家系だよと早くから教えてあります。娘2人と孫5人いますが、今のところ依存症の問題はおこしていません。危ないよと教えていれば遺伝要素があっても心配ないです。

3つ目は飲みすぎ、やりすぎ、使い過ぎる事です。使い続けなければ依存症にはなりません。「飲む、やれる、使いすぎるまでやれる環境があった」ということです。この3つが依存症の原因なんです。

 

どうしても自分の子育てが間違っていたから依存症になったと思う方はいませんか。そう思うのは自由です。でも依存症ではない家庭を見てみたらどうでしょう。お父さんお母さん立派な方ですか?完璧な子育ての家庭でしょうか?人の家をみて、よくあのお父さんお母さんの家で立派な子供さんが育ったものだと思うことありませんか?ここだけの話し。そんなものです。だから自分を責めるのは止めて下さい。親御さんは罪悪感を持たないでください。そうしないと依存症が語りかけます。「ほらほらあなたの娘さんがああなったのはあなたの責任でしょう?息子さんあんなに困っているのにどうしてお金出してあげないの?あんなに家に帰りたいと言っているのに何で入れてあげないの?」これは依存症の叫び声です。これに上手に乗せられてしまって、間違った行動をしがちです。危ないです。

 

これを踏まえて、ご家族がどうするべきか考えましょう。

まず「依存症はどういう病気かよく知ること」ですね。いろんな方の話を聞いて下さい。いつも言う事ですが、依存症者は悪人じゃないです。罪人でもないんです。では何だと思いますか? 病人です。依存症にかかった人は病人です。罪人だと思っていたんですか?ダルクって治療施設です。強制収容所ではないです。刑務所でもないです。依存症の患者さんがここで回復するために治療をうけているんです。何らかの理由で依存症になった方を治療するところがダルクです。刑務所ではない。罪人ではないということ、ご家族はぜひぜひご理解いただきたいです。

それから依存症を持っている人に「安易な手助けをしないこと。尻拭いもしないこと。」これはとても大事なことです。自分が依存症になってやったことの結果を本人が見届けない限り回復できません。ご家族が助けてしまうと、その結果をご本人が見ないですんでしまいます。これは一番よくないですね。回復のためになりません。依存のために良くない結果がおきますよね、辛い結果は本人が回復するための原動力になるんです。辛いのを可哀想と思って手を出すのは邪魔になります。私も親になって理解できましたが、親心ってのは、子供が辛い思いをするのを見るのが嫌なんです。でも辛さを見なければ回復できません。

3つめは「金銭的な援助は止めた方がいい」です。例外はありますが。依存症を続けるにはお金がいるんです。ギャンブル、酒代、薬代。金銭的援助をしてしまうと、依存症者は現実を見ないですんでしまいます。車の修理代、家賃の肩代わり、裁判所の費用、出してあげているとご本人の回復がどんどん遠くなります。ただ微妙な問題がある場合もあるからダルクスタッフと相談して下さい。今申し上げるのは原則的な話です。本人のためと思ってやっていることはよくわかります。ご家族がよかれと思ってやっていることは何の疑いもないんですが、借金の肩代わりをしている限りは回復もずっと後になるということです。薬がどうしても手に入らない時、ギャンブルやる元手がなくなった時、酒飲むお金が工面できなった時、回復が始まります。依存症という病気は嘘つきです。本人が嘘つきなんじゃないです。病気が本人に嘘をつかせるんです。病気がさせるんです。お金は出しちゃだめです。床屋に行くお金だろうが、車の修理代だろうが、お金は依存症に流れてしまいます。渡しちゃだめです。

4つ目に大事なことは「原因探しは止める」こと。いったいあの子はどういう時にお酒飲むんだろうなんて、分析はしないでください。原因はみつかりません。依存症は病気です、私がもっと優しくすれば、なんて考える必要まったくありません。皆さんは普通に生活して下さい。原因探しに時間を奪われていると、何一つ進まなくなります。

5つ目は「実行しない約束はしない」。逆にいえば出来る事だけをやって下さい。親子の縁を切るといっても、縁は切りようがありません。やれない脅かしをしないでください。今度飲んだら離婚だから、今度やったら追い出すから、そんなこと言わないでください。口先だけの脅かしはだめです。依存症の人に言葉で何を言っても無意味です。行動や態度で示すしかないです。家族の脅かしやはったりは、依存症者の空約束と同じです。出来ないことを言うのはおやめになったほうがいいです。

6つ目「約束は取り付けない」。依存症は約束を守れなくなる病気だからです。何回止めるって言いました?なぜ守れないかわかりますか? 治療して回復すれば約束を守れるようになります。しかし病気の真っ最中には守れません。約束させるとまた約束破りやがってと感じます。これを何度もやると次第に相手に嫌な気持ちがわきます。病人に対する思いやりがなくなって、憎しみがわきます。最悪の場合殺意を抱きます。とても嫌な質問ですけど、依存症の方に死を願ったことが一度でもある方は?普通のことです。病気に巻き込まれるとそうなるんです。全然変じゃありません。あの人さえいなければと思っちゃうんですね。これは病気に巻き込まれるからですね。ものの見事に巻き込まれます。これは出来ない約束をするからです。

7つ目「お説教、説得、止めて」下さい。まったく意味がありません。そもそも聞いているかどうかわかりません。うるせえんだよ、また始まったよ。分かりきってる事をなんでいうんだよ、と思ってます。それをやっていると相手に罪の意識を植え付けちゃうんです。家族の中に病人が出た時、家族は治せますか?バンドエイドをはるとか、風邪薬を飲ませるくらいでしょう。依存症は軽い病気ですか?死に至る病です。アルコール依存症者は体を悪くして、連続飲酒で亡くなる方が多いです。ギャンブル依存の方はなぜ死ぬでしょうか?パチンコ店の空気が悪いからでしょうか?いいえ借金返せなくて、自殺するんです。薬物依存症の方は刑務所に行くくらいならと、自殺します。死と直結する病気なんです。

もう一つ大事なことは、なぜ体を悪くするまでお酒をのまなければいけないんでしょう。なぜ返せないのにお借金してまでするんでしょうか? 深い所に理由があります。俺なんてどうなったっていいのさと思ってます。それは自己否定なんです。借金かえせなければ死ねばいいさ。自分のことを大事だと思う認識がないんです。俺なんてどうでもいいよ、死んだっていいんだ。私なんてどうなったっていいわ、と思っています。これに手をつけないと回復できません。自分が大事で生きるに値する人間であるという感覚を持たないと回復は難しいんですが。多くの依存症者はいい気分になるからハマるんです。嫌な気分になった時、お酒を飲むと楽になれる、いい気分になれる、ストレスが減る、眠れるようになる。良い所だけ覚えています。悪い所は忘れしまっています。本当は惨憺たる結果になっている。えらい目にあっています。それを忘れて良い所取りして覚えています。この良い所取りしている人は、まず回復しません。依存症者はこうしたらもっと飲めるだろう。ワンカップ2杯迄なら、三千円までなら大丈夫、等々こういうやり方すれば大丈夫だという考えが少しで残っていると必ず再発します。必ず失敗します。結局うまくいかないんだということに、1日でも早く辿り着いた人が勝ちです。なんとかなるという気持ちが少しでもあれば必ず失敗します。依存症の入院施設に見に行って下さい、再入院した人ばかりです。何度も何度も入院してきます。何とかできると思っている人が再発するからです。

ダルクでも取り入れている12ステップで、第一のステップ1は、「私たちはアディクションに対して無力であり、生きる事がどうにもならなくなったことを認めた。」これをクリアしない患者さんは何度でも再発します。どんなに工夫しても結局は元の木阿弥になるんだということを認めていない患者さんは、再発の近道にいます。だからご家族がどんなに頑張っても、本人が認めなければ回復しないんです。

8番目。再発の兆しに気付いた時、ムカつくことはあると思います。「衝動的に怒らない」「衝動的に憐れんたりしない」。どちらも無意味です。相手もその衝動に合わせて浮き沈みをします。不必要な感情の浮き沈みを経験することになります。それはしんどいだけです。シーソーゲームみたいなものです。怒ったり、憐れんだり、その後で言いすぎちゃったと反省したり。相手は病人だから優しくしなきゃと思ったリ。そんなことしても依存症はなおりません。皆さんは腹が立ちます。時間とエネルギーの無駄です。そっとするしかないです。

9番目。「依存症を家庭にもちこまない」。原因探しをしたり、迎えに言ったりするのも依存症を家にいれる事です。それではダメです。家庭に入れると具合が悪くなります。依存症者以外の家族で結束して愛情のある家庭を作りましょう。依存症者のために迎えに言ったりするのは止めて下さい。みなさんご自身の人生があるはずです。そのために時間とエネルギーを使って下さい。依存症者に振り回されるのは止めましょう。ご家族が自分をないがしろにするのは止めましょう。たとえ愛する子供であっても、愛する子供であればなおさら、みなさんは健康でいないとダメです。

付け加えていうと、あの人のやる事為す事問題でしょうか?それとも依存症が問題でしょうか? あの人の病気が問題なんでしょ。みなさん依存症から回復した人に会った事ありますか?ここダルクで回復者に会えます。回復者はこの施設にたくさんいますから。その人たちを通して依存症は病気なんだと理解することです。

 

回復はどうやって進むかお話ししておきたいです。なかなかトントンとはいかないですが残念ですが。回復はだいだい4段階あります。第1段階は本人はあまり止めたくないです。でもこのままではヤバイかもしれない、警察が来るかもしれない、離婚されるかもしれない、家から出されてしまうかもしれない。止めたくないんだけど止めるきゃないなと。外的条件のために止めなきゃと思うだけで、自分の問題じゃないんです。治療が進んで第2段階めになると、自分のためにと内的条件に変わってきます。俺が止めたいなと思い出します。第3段階は、生きる為に依存症が不必要になります。嫌なことがあろうとなかろうと、依存対象をしなくても、生きていけるようになります。第4段階までいくと、生活をもっと発展させられるのです。次の依存症の人に自分の体験を話していかれるようになります。

これに合わせるように、ご家族の回復もよく似ています。ご家族も、第一段階はあの人になんとかやめてもらいたいから家族会に来ます。わるいことじゃないですよ、あの人のためです。ところが何回か来ているうちに、自分のために来るようになります。というのはあの人のために何をしてもダメと解ります、あの人の問題はあの人に任せるしかない。それ以上のことは家族としてはできない。自分病気に巻き込まれないようにする。第3段階は、あの人がまたスリップしてひっくり返るかもしれない。でもそれはあの人の問題であって私は私。ご家族の第4段階になると、自分の体験を後から来る家族に伝えて、あの人に囚われないで私は私らしく生きていきます。ご本人の回復とご家族の回復、似ているけれど違いもありますね。整理しますと、依存症は病気だということです。あの人の病気を家族は治せない。その前提で脅かしたり約束させたりするのは無駄です。あの人の人生はあの人のもの。ご家族はご自分の人生を、幻想や妄想に煩わされずに、健康に楽しんでいただきたいと思います。

文責:伊藤