<8月家族会報告>
2019年8月17日(土)午後1時半~5時 23名参加(19家族) 初参加3名
講師 稲村厚先生(司法書士 ワンデーポート理事長)
印刷資料「依存問題と生活危機を乗り越えるために」「当事務所の債務整理他」
田中 今回稲村先生に来ていただきました。僕が千葉ダルクで代表の白川さんと多摩の精神保健福祉センターへ通っている頃からのお付き合いです。千葉ダルクのメンバーの債務整理とかでお世話になりました。借金がある場合ダルクに入ったら「とにかく一旦棚上げして下さい、いきなり返さずにダルクに持って来てください」と言っても、ご家族は心配ですよね。やはり専門家の先生から太鼓判押してもらった方が親御さん納得しますよね。今は夢も希望もない社会ですから、若い人たち、ギャンブルに嵌る人もたくさんいます。社会の問題もありますね。まずはダルクに入所して1年2年素面の生活の基礎を作ってからお金の整理です。そいうお話をしていだだきます。また今日は黒川さんがいらしています。僕が千葉ダルクからお世話になっている、「菜の花家族会」の代表です。全国飛び回って家族会を率いてきた方でもう17年になりますか。お子さんは回復しているんですが、それでもずっと家族会に通い続けているお方の話しは、とてもためになりますので。是非聞いて下さい。
稲村 厚先生
1 自己紹介
僕は本職は司法書士です。かれこれ30年、当初から債務整理を中心にしてきました。借金問題はなかなか解決しませんね。20年前にワンデーポートの立ち上げに巡り合って、いつのまにか理事長という肩書がつきました。ワンデーポートはギャンブルのダルク版といっていいでしょう。でもワンデーポートでうまくいかないケースもあるので、相性もありますから、そういう人をダルクさんにお願いしたりして。お互い助かっています。
2 最近の依存と借金の問題。
当事務所の債務整理の内訳です。かれこれ20年くらいギャンブル依存に関わっていますけど、依存の問題って日本の社会状況と一致しています。これは8月から区切って1年間の統計です。(なぜ8月かというと、来週久里浜でギャンブル依存の講習がありますのでそれに合わせて。)法的債務整理の受託件数は48件。そのうち依存関連が43件で、関係ないのは5件程度。うちの事務所だから依存問題が多いのです。後で詳しくお話ししますが、債務整理には、自己破産(裁判所を使う場合)と任意整理(債務者との話し合いで行う場合)とに分かれます。自己破産が11件、任意整理が29件。消滅時効というのが5件。借金は借りて5年以上、一切返さないと消滅時効といって向こうが請求する権利を失うのです。今年は5件で多かったです。一時期借金が社会問題になり国が対策を打ちました。余り借りられないように、利息も下げて。一時それで減ったのですが最近増えた。消費者金融は年収の三分の一しか貸出できません。実は銀行はその制限がありません。今銀行がむちゃくちゃ貸すし、無担保で300万くらい貸すので債務整理がふえています。インターネットバンクなども結構貸します。自己破産はお金返せない場合、任意整理は返せる場合です。消滅時効は5年逃げ回なきゃいけないので、なかなか難しいのです。
属性を見るとうちは男性が多いです。年齢層は20代から60以上まで、どの年代も同じ位です。これはおかしい。20代がどうしてこんなに多いのか。40代50代は仕方ないと思うんです、子供もいるしお金がかかる。20代が30代がどんどん増加しているのは、どうしてか。単に依存の問題だけでなく社会のありようを反映しているともいます。
債務額とギャンブルの種類。債務整理は300万ぐらいまでが圧倒的に多いです。若い人はそんなに借金できないです。しかし大口の1000万位の借金をする人がいます。900万の人が二人いました。40~50代の人です。一つは銀行の借金。ギャンブルの種類は半分以上がパチンコとパチスロ。前は85%超えていましたが少なくなっています。規制がかかってあまりお金を使えなくなっているからでしょう。増えているのが競馬で大口の人はほとんど競馬です。実は競馬は青天井なんです。債務整理で順調に返していた人がある時急に返せなくなった。聞いたら給料全部使っちゃったというんです。「固いレースに賭けてみて、倍率が低いために多数賭けなきゃいけない。それで給料全部賭けてしまったと」(笑)いう。パチンコはそうはいかないけど、競馬は賭けようとすればいくらでもかけられるんです。しかも今はボートレースとかはスマホで賭けられる。居ながらにしてできるんです。スマホのサイトだかプログラムだかを消してしまえば賭けられなくなります。ある人が「消しました。どうしても賭けたい時は友達のスマホを借りますと。」(笑)彼にしてみれば「全く賭けられないのはストレスがたまる、いざとなったら友達にお願いして賭けさせてもらう。」と。ワンクッション置く事を考えたわけです。実はそう考えること自体が大事だと思うので。何とかしようとしているんです。僕は「それはよく考えたね」と言いました。
なんでそこが甘いのかというと、そこが薬物やアルコールと違うところで。ギャンブルの場合は自力でためたお金でなんとかなるんなら、そこは認めて一からやり直そうという形にします。彼は仕事もまじめにやっているんだけど、問題は、将来の夢とか生活設計が描ききれないです。結婚も仕事も考えられない、今を生きているしかないんです。そういうところが問題ではないか。引きこもり系の人もいるのです。何もできないけどゲーム課金。この相談も増えてきていますね。買い物とか性風俗とかもあります。うちに来る人ってダルクに入るレベルでない人が多いですけれど。
DAという自助グループがあります。デターズ・アノニマス。借金をするのが癖になる人のグループがあって、僕は仲いいです。ゆるいんです。買い物ってやめられないでしょう。断ち切れないからどう使いすぎないようにするかが問題です。どうカードを使えないようにするかとか工夫しています。
うちへの依頼ルートも多彩になってきました。ワンデーポートの利用者もいます。入るとき一切お金の問題は解決しない。一切棚上げでご本人は入所する。ご家族に取り立てが来たときはそれなりに対処してもらいます。その方法については後で詳しく。ワンデーポートは毎週金曜日家族相談をします。最近は精神保健福祉センターの割合が多いです。僕は最初は多摩の精神保健福祉センターに年一回。千葉県の精神保健福祉センターに2ヶ月に一回、千葉市の精神保健福祉センターに2ヶ月に一回行っています。ダルクやマックからの依頼もあります。あと僕が書いた本(「ギャンブル依存と生きる」彩流社)を読んで来られる方。最後は司法書士会。
特徴点などをまとめます。
1 最高債務額は1000万円(無担保)。900万円も2人。・・・銀行はこんなに貸さないでほしいですね。それぞれ働いて返しています。退職金も含めてなんとか収支黒字であれば合格点じゃないですか、といいます。場合によっては任意整理で毎月10万円ずつ100回、9年くらいかかりますね。最初の3年間は5万円で抑えて、子供が卒業したあとは10万円超とか、そのようにするとあまり苦しくなく払えるようになります。ある程度の目標設定をおきながら、次はどうしようかというふうに考えます。
2 競馬は債務額が多額になる傾向が顕著。・・・現場の人は感じていますが、社会的にとりあげられてないので知られていません。良い俳優を起用してCMなどしていますね。あれ問題じゃないかと思いますよ。アルコールなら外国ではCMで飲む姿も映しちゃいけないというのに。
3 引きこもり系が増えています。若者がどう生きたらいいのかわからないようです。夢を持てない現象があるんじゃないかな。ひきこもりでもうちに来る位になっていたらもう脱しかけています。引きこもり脱出のきっかけになるのなら、それもいいかもしれません。
4 若年化の傾向もあり、高齢者の方も増加しています。・・・しょうがないという感じもあります。
5 30代が多い。・・・就職氷河期との関連があるかもしれないです。
6 連携先が多彩になってきている。・・・依頼ルートも色々、うちからも抱え込まないですむ。社会全体の問題として考えられるようになるといいですね。
3 支援の順序について。
どこから手をつけるかがあります。なかなかすっきりしない問題です。加害者家族支援をしている人に巡り会いまして話を聞きました。日本では加害者の家族がマスコミの餌食になっています。その人たちを支援する場所がない。韓国にはありますしマスコミが追ったりしないです。日本は家族の責任みたいに言って厳しいんです。加害者家族支援は仙台、大阪その他にあります。担当している人に聞くと、まず生活危機からの脱却が優先されます。心理、医療の対応はその後。生活危機がある場合それを見逃さないでおきたいですね。
4 債務整理について、
どういう仕組みでやっているのでしょうか。
まず「相談受任」委任を受けることです。委任状を取り交わします。私たちは受任に基づいて「受任通知」を各債権者に通知します。最近はFAXでもいいです。これは威力を発揮しまして、貸金業務21条に「取り立て規制」がありまして、弁護士・司法書士から受任通知を受け取った場合は、取り立てができないんです。本人に連絡とることもできません。この段階でまず安定します。次に「取引開示」と言って今までの取引内容が送られてきます。元金いくら利息がいくら、債務がいちおう確定します。ここから方針を決めます。「自己破産」か「任意整理」か。返済にかけるお金、生活にかかるお金。生活費を除いて5万返せるとか、2万円までとか。300万円の場合。元金だけでも分割で5万円返すとすると60回。5年で返済するという話にすると大体まとまりますね。2万円しか返済に回せないということになると、自己破産の線です。返せないとなると破産。「免責」ということになります。免責は98%は認められます。認められないケースは浪費の場合。依存の場合は確実に浪費にとられます。薬物だろうがアルコールだろうが。でも私は殆ど認められてきました。依存の受任が必要で、「なぜ依存になったか、それを回避するためにどうしましたか、ダルクに入ったとか、そして今は安定しています」といったストーリー。それを出せば殆ど通ります。逆に誰かの保証人になって債務を引き受けたとなると、免責になります。
でも2万円しか払えないというばあい、2万円で100回と、それはなかなかとおりませんが、なんとかならないかと交渉して時間をかせぎます。一度120回という交渉もできましたが、なかなかタフな交渉になって疲れますね。気を付けていただきたいのは、インターネットで返済のコマーシャルをやっている所がありますが、そういうのは60回で毎月5万とか。電話で決まります。そんなの家庭の事情とか見ないで決めて無理です。そんなのはすぐ解約して下さいといいます。そして私が引き受けます。
「任意整理」は一括払いもありますが基本は分割払い。例えば5社で300万。毎月家族が5社に振り込む、それはストレスになり夫婦喧嘩のもとになったりします。その場合うちにいれてもらって、うちが返済する。お金が入ってこないとなると何があったのかとうちから聞きます。毎月5万円返済しますとなると、8月から返す場合、3ケ月ぐらい置いて11月から返済する事にします。何かあってもストックがあるから安心して返せる。返済が安定します。これが一般的かどうかしれませが、私のやり方です。
5 貸金業法21条の取り立て規制・・・金融庁が取り締まっています。
- 張り紙等で借金について外部に知らしめる行為。・・・こんなことしたら業務停止になります。
- 債務者に代わって返済を要求させる行為。・・・あなた親なんだから払わせなさいとか言ってはいけないんです。
- 他からの借り入れを要求する行為。・・・代わりに払いなさいとかも言ってはいけないんです。
- 取り立てへの協力を拒否している者への協力要請・・・家族は取り立てに協力させられることはないんです。
- 受任通知後の請求行為。・・・「金融庁に電話しますからあなたの会社の名前を言って下さい」というと、まず相手は電話を切りますよ。
これらは知っておく必要があります。ただこれの規制が通じるのは、登録業者です。闇金は違います。彼らは存在すら違法なのです。闇金には一切返す必要はありません。ただ本人が闇金から借りるとき、家族の住所や電話や会社などあらゆる連絡先を登録させます。そこに取り立てが来るのは多少覚悟は必要です。あとは警察に行って相談して下さい。必ず警察を通すこと。確実にやみますので、慌てないで下さい。
6 依存問題の債務整理の留意点。
安易な整理は再発を招くことがあります。ダルクには行って何もしないのがいいのです。でも誰もがダルクに入ることはできない。多くの人は在宅で任意整理していきます。生活危機からは脱するが安心してまた借金する人もいます。そういう場合、「受任通知」を解約することはできると、本人に言います。
7 再発防止に向けて。
依存の結果として起きている問題:社会不適応。経済問題。家庭内の人間関係。仕事への影響。引きこもり・鬱状態。孤立・孤独。
依存の結果としての問題:本人と家族におこっている問題は、依存の結果とみえがちだが、逆に原因となっている場合もままあります。元々家族問題があって、それから逃げるために依存している場合もあります。この諸問題を解決することは、結果的に依存のリスクを減らすことになります。ここは留意する必要があります。
本人の特性の確認:これには本人の特性の確認も必要です。ギャンブル依存症は理屈っぽい人が多いようです。が、理屈っぽい人はそれなりに納得させるのはしやすい。本人にいい気分になってもらう事も大事なのです。本人の特性をよくよく理解して付き合っていくことが必要かなと思います。
8 依存問題で必要な社会資源(経験から)とケースワーク
施設から出た後在宅で何とかしている人たちもいます。ご家族だけで引き受けるのはむりです。社会資源につなげないと。
暮らし、仕事、余暇の観点・・・暮らしは一番基盤です。朝起きて食事して、という生活のリズム。きわめて大事です。施設を利用しない場合はここがなかなかうまくいかなくて。暮らしもできないのに仕事行きなさいといっても無理です。
余暇支援・・・それに乗っかってくるのは、余暇と仕事です。仕事だけではだめです。ギャンブルも薬もどっちも余暇問題です。生活保護で暮らしができて、健康的な余暇ができたら、大丈夫。それがパチンコ行っているようではだめです。
施設・・・こういった支援をできる施設が必要です。ワンデーポートは今、マラソンとか釣りとか。ボーリングもしますね。色々な余暇を考える必要があるのでなかなかこれをやってくれる所が少ないです。ケースワークと余暇支援を出来る施設が望ましい。
弁護士・司法書士・・・これは債務整理、労働問題、家族問題の法的支援をします。
就労支援・・・就労は前向きな支援なので当事者が乗りやすい相談です。ただネットの就労相談は注意です。イイことしか書いてない。本人も給料だけみて合わない仕事に飛びついてしまいかねない。心理テストしてくれるところがいいですね。若者サポートステ―ションなど。サポステは国の事業なので地域は決まっていません。どこでも会ったところを利用できます。船橋のサポステはいいです。
生活困窮者支援・・・滞納税金などへの対応ができます。
社会福祉協議会・・・「安心センター」による金銭管理をしてくれます。一定の条件がありますが。
不動産屋・・・信頼できる不動産屋が居住支援をしてくれる場合があります。
余暇支援・・・地域の様々な余暇。習い事、同好サークルなど。けっこう「嵌り込む力」がありますよ。夢中になれるものがあると、人生が豊かになります。
9 ケースワークとコーディネート
私が大事にしているのは、自己肯定感を上げる事。孤立や孤独を解消していくこと。
みんな傷ついていますよ。褒める、生きてきた力を認めてあげる。それが大事。
友達を作れない人もいます。たまに来て話す場所を創ってあげる事も大切だと思います。
関わり続ける事、行政などとの情報共有も必要です。
ご清聴ありがとうございました。
<質疑応答省略>
文責:伊藤