<2022年11月家族会報告>
10月15日(土)1時半~5時 23名参加(19家族) 初参加1名
講師:駒木野病院副院長 田 亮介 先生
「こころの病気としての”アルコール依存症”」 印刷資料A4 20頁
(前半省略)ここからお酒の話に移行していきます。お酒と災害の関係は結構昔から言われてきたことです。東日本震災の後にも各地でお酒の問題が広がってきました。私も来年2月に行きますが定期的に福島のアルコール問題支援に入っており保健所の皆さんと勉強会を開いています。今は落ち着いてきたとはいえ、災害ごとにお酒の問題が起こるのはまだまだ多いと思われます。東日本大震災では東日本の人々が被災した、そこに北海道から九州から関西からと色々な所から支援が入ります。ところがコロナは、第8波に入ってきたと思われますが、コロナパンデミックというのは、ある意味国全体が被災者ですから、被災者も支援者もない。本当に今まで経験がない状況だと言えます。「COVID-19 パンデミックのメンタルヘルスへの影響」これは新型コロナウィルス感染症流行下におけるメンタルヘルス対策指針ですが、いろいろな影響がある中で5番目に「物質依存」が挙げられています。「アルコールや喫煙、薬物等への依存行動への誘発、増強」と。私は企業の産業医もやらせていただいているのですけど、のきなみテレワーク在宅勤務になってから、お酒の問題を抱えた方が本当に多くなりました。多少酔っぱらっていても画面越しで仕事しているようには一応見えますし。煙草もまた始まっちゃったという方も多いです。健康増進法のおかげで会社も吸えない場所になったのですが、在宅勤務で家の中で煙草吸うのは自由ですから、そこでまたはまってしまったという方も多いように見えます。
「アルコール関連の身体問題」がどれだけあるか、(日本医事新報2001年)図では様々な病名が並んでいます。お酒の問題が増えるという事は、このような身体疾患を抱えた人も増えるという事です。「全身の様々な臓器障害を引き起こす。60以上の疾患や外傷がアルコールによって引き起こされる。慢性、進行性、致死性の疾患と言われるゆえん」と書かれています。「WHOの見解(2009)」実際、癌に関してはお酒との関連が言われていまして、「口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん、肝臓がん、大腸がん、女性の乳がん」また「アルコール飲料、飲料中のエタノール、飲酒関連のアセトアルデヒドには、人への発がん性の十分な証拠がある」とされています。「アルコールは極めて有害」というデータですが、(ランセット2010)アルコールからマジックマッシュルームまで、様々な薬物の有害性を数値化したところ、アルコールが一番有害であったというグラフです。2番目がヘロイン、3番コカイン、4番覚醒剤、次に煙草ときます。特徴的なのは、使った本人への害が青、周りの人への害が赤で示されていまして、薬物では一般的には青い所が多いわけですが、ことアルコールに限っては赤の部分が多いのです。飲んだ本人以上に周りが害を受けるというのが、アルコールと他の薬物との大きな違いであります。自身の健康問題にとどまらず、家族を巻き込んだり、社会問題に発展するのが特徴なのです。お酒の害については社会的にも浸透してきまして、イギリスにはパブの文化がありますが、最近はふつうにノンアルコール飲料が置かれるようになってきまして、お酒飲めない人も一緒にコミュニケーションを楽しめるようになってきたという事です。世界的にはお酒の害に注意するようになってきた現状がありますが、日本はどうかというと、スーパーのお酒売り場には非常にカラフルな缶飲料が並んでいます。ストロング系から弱いものまで、しかも安い。酒造メーカーは20代30代の女性をターゲットにして販売を伸ばそうとしています。残念ながら女性のアルコール問題はこれから増えてくるのかなと懸念されるところです。国全体で取り組んで行く必要があるのだろうと思います。
「アルコール依存症患者数と治療ギャップ」(厚労省の患者調査2014年)依存症の治療の話に移りますが、107万人くらい依存症の人がいると想定されるのですが、実際「依存症」と病名がついて治療につながっているのは5万人くらいしかいない。ざっくり5%くらいの人しかちゃんと診断されて治療を受けてはいない。そういう日本の現状があると言われています。昔アルコール依存症という病気は中年の男性の病気と言われてきたのですが、今は老若男女の問題となっています。日本だけ特別かというと実はそうではないようでして、これはヨーロッパの統計で2004年と少し古いですが、「各精神疾患の治療ギャップ」ギャップとは、治療が必要な人のうち、治療を受けていない人の割合です。例えばうつ病ですと45%です。55%の人は医療に繋がって治療を受けている可能性があるということです。双極性障害やパニック障害でも40%台ですが、アルコール依存症は92%とされています。診断を受けて治療されている人は8%に過ぎないと。日本では5%と言われていますから近似値で、これは全世界的問題として考えて行かなければならない事だとわかります。
「アルコール依存症に関して様々な“誤解”がある」では何で治療が必要な人に治療が届いていないかというと、特に日本では偏見が強いせいではないか。例えば「依存症は「嘘つき」だ。「性格の問題」だ」。「だらしのない人が依存症になる。」「意志が強く持てば止められるはず」「止める気がないからだ」「飲まない期間があるから依存症ではない」「好きで飲んでいるから自業自得だ」とか。本当に損な病気だと思います。それで医療にかかろうという気を起こさせないのでしょう。問題発生から受診まで平均7.4年というデータもあります。どこに相談に行ったらいいか分からないという、アンケート結果もあるので、治療に向けたルート、仕組み作りもこれからの課題かなと思います。
「アルコール依存症のイメージが重症者に偏っている(スティグマ)」。例えば癌という病気ですと、20年前ですとがんと診断されたら「一生終わったな」というイメージでした。専門の先生に聞いたら、癌と宣告したら翌日に自殺未遂した方を何人もみたと。死と直結するイメージが付きまとっていたのです。最近は早期発見早期治療で変わってきましたよね。アルコール依存症に関しては重症のイメージが強くて、最初から重症の人などいないのですが、なかなか早期発見早期治療につながりません。口で言うほど簡単ではありませんが、でも何かおかしいなと思った段階で病院に来ていただけるような仕組み作りができると、依存症のイメージも変わってくる可能性があるのではと、個人的には思っています。「なぜ依存症と診断されない?」これを助長する要素が実は医者の方にもあると思います。全員の医者が依存症を診断できるかというと、残念ながら満足できるレベルには達していないと言えます。明らかな依存症であっても「かかりつけの先生からちょっとだけならいいよと言われた」とか「量を減らせば大丈夫と言われた」という方に、私の口から依存症ですと言っても、「10年以上見てもらっているかかりつけの先生だから」と聞く耳をもってもらえない事があります。逆に医者もあえて病名を付けない、場合によっては診断書を出さないという事も生じます。アルコール依存症という診断名を付けると、社会的に不利益をこうむるのではないかと医者側が配慮するわけです。こういったことも徐々に変わってくることが望まれます。
それでは診断はどういう風につけるか。「アルコール依存症の診断:ICD-10」という 診断基準があります。ここには依存症の代表的な6つの症状が出ています。今のルールですと6つ並んだうちの3つ以上あてはまれば依存症と診断していいですよとなっています。1番の渇望「飲酒したいという強い欲望あるいは切迫感」。これは病的に欲求が強いことで、好きとか嫌いとかのレベルではない、酒がないといられない、非常に本人とお酒との距離感が近い状態です。イラストにもあるように、家人が寝静まったのを見計らってからコッソリ冷蔵庫を開けるとか。良くないとわかっているから、見つかると怒られると知っているからですね。また仕事していても午後になると、何処でお酒飲もうかなと考えて頭一杯だとか。あるいは雨ザアザアでも台風でも夜中でも、お酒を買いに行ってしまうとか。危ないからやめておこうなんて思わない。それくらい病的な欲求が強いことを渇望といいます。これはなかなか経験しないとわからないと思います。アルコールに限らず薬物もそうですね、繰り返し逮捕される芸能人や野球選手を見て、また逮捕されたのか、あれだけ更生します、裏切りませんといったじゃないかと、皆さん思うと思いますが、その時はそう思っても、目の前に実際に薬物をみてしまうと飲まずにはいられない心の状態になってしまうというのが、依存症の特徴です。ある方が「発作」と表現していました。発作が起きると自分ではコントロールは難しいです。喘息の人が咳ゴホゴホしているのを止めろと言っても無理ですよね。それと同じでなかなか自分で止めがたい状態になります。2番は「飲酒行動のコントロール不能」様々な意味でのお酒のコントロールが出来ない事です。量のコントロール、時間のコントロール、あと場所のコントロール。「実は会社で飲んでいた」「実は入院中に飲んでいた」とか、いけないのを知らないわけではないですね、でも渇望がくると飲まないではいられない。3番は離脱症状、ふつうのお酒飲みにはないお酒が抜ける時に出てくるもの、昔は禁断症状と言いましたけども。「イライラする、吐き気がする、神経が高ぶって熱が出たり汗をかいたりする。頭で指示してないのに勝手に手が動いてしまう。」それくらい脳が興奮状態になっているという事です。4番目「耐性の増大」といって飲んでもだんだん効かなくなってくる。寝酒が1本だったのが、2本になり3本になりと、たくさん飲まないと酔えなくなってきます。5番目「飲酒中心の生活」だんだん余暇の時間イコールお酒みたいになって、本人の生活におけるお酒の割合も増えてきますし、頭の中のお酒の割合も増えてくるわけです。今までの仕事、家庭、趣味などの優先度がどんどん下がっていくのが見て取れるようになってきます。6番目は「有害な使用に対する抑制の喪失」いろいろ有害な状況が生じているにもかかわらず同じことを繰り返してしまう。奥さんとの喧嘩が絶えないとか、肝機能障害であるとか。お酒を止めるなり減らすなりして、同じ問題をおきないようにすればいいのですが繰り返してしまう。これも本人が分かってないとか反省が足りないとかじゃなくて、渇望やコントロール不能のせいで、本人もシンドイ思いをしている事が多いです。酔っぱらっちゃってわからなくなっているかもしれませんけどね。
「特に重視される症状:連続飲酒」重症になると出てくる症状ですが、寝ているか飲んでいるかの二択しかない生活になる。こういう状態になると栄養のある物をとらなくなってしまうので、栄養失調になって痩せてしまう。一人で歩くこともままならなくなる人もいます。ほぼ入院していただいた方がいい状態ですね。「特に重視される症状:離脱症状」最終飲酒の6~10時間後に「小離脱(早期離脱症状、振戦、頻脈、軽い発汗、不安焦燥、一過性幻覚、軽い見当識障害等)」が起こります。そのうち20%くらいの方が「大離脱(振戦、著しい発汗、自律神経亢進症状、精神運動興奮、幻覚、著しい見当識障害)」という激しい興奮状態を起こします。小離脱だけですと薬の調整で外来でも対応可能な場合もありますが、大離脱になると家庭では見られません、ほぼ入院しないといけない状態になります。これら離脱症状というのは、普通のお酒飲みにはない典型的な依存症の症状です。
「症例イメージ、40代女性、クリニック受診中」一つの例です。「家族構成としてはご主人と子供がいる。結婚後専業主婦となり、夫が酒好きだったために、夫に付き合い毎日夕食時にビールを飲むようになった。夫は忙しく留守がちで育児への不安や悩みを抱えている。現在うつ病と診断され近隣のクリニックに通っている。最近は家事の合間に飲んでしまい、最初ビールだったものが度数の強い酎ハイ350mlを一日に2,3本になることがある。そのために家事や育児がおろそかになっている。夫や友人には気づかれていないが、量を減らしたいと思っている。だが減らせていない。」さっきの診断基準に照らしあわせますと、「減らしたいのに減らせない、病的な欲求がある」「コントロール喪失状態」「耐性の増加」がある。3つが十分にあてはまります。世間一般の依存症のイメージとは違うと思えますが、専門医からすれば、これも立派なアルコール依存症といえます。この段階でもう治療が必要なレベルだと考えています。
「アルコール関連問題のスクリーニング:AUDIT」自分で何かおかしいなと思った時の調べ方として、最近インターネットでもアルコール依存症のチェックリストみたいなものが入手できます。これはオーディットと呼びます。10項目あって0~4点で全部で40点満点。合計してみて20点以上だとアルコール依存症の疑いありますよと判断できるものです。最近は企業の健診で一緒に行ったり、特定保健指導の中に盛り込んだりしています。依存症は進行性で重症化するので、重症になる前にチェックして介入出来ることが大事かなと思います。「アルコール依存症の診断確定の意味するもの」。先ほどのはスクリーニングでしたが、正式に診断されたらどうするかです。診断は治療とセットでないと意味がないです。レッテルを張るためではなく、こういう方向にあなたは進むべきですよ、と示すのが診断です。「節酒は困難であって、断酒が必要なこと」「飲酒を続ければ重症化し、死に至る可能性があるということ」「治療を始める必要がある」「断酒を継続できれば回復の可能性が十分にある病気」なのだと。加えてアルコール依存症の概念として「意志の力では飲酒行動を制御できない慢性的な脳の異常状態」である。回復可能な脳の疾患なんだと、決して意志の強弱や人格の問題ではないということを、本人も、出来れば周りの方も理解しておくことが、非常に大事なことだと思います。
「アルコール渇望時における脳の活性」少し専門的になりますがMRIという脳の画像を使った臨床研究です。依存症の人10人と依存症ではない人(コントロール群)にそれぞれ写真を見てもらいます。1番目の写真はお酒、2番目は普通の飲物、3番目は無関係の写真、4番目は写真なし。様々な視覚刺激を与えた時に、依存症の人とそうでない人とはどう脳の反応が違うか比較してみた研究です。脳の輪切り写真が4つ並んでいますけど、右側がコントロール群、左側がアルコール群で、10人分を平均した画像です。脳の活動性の高い所が赤く見えるようにしました。依存症でない人はそれほど赤くならないのですが、依存症の人は明らかにあちこちに赤が見えます。あちこちの脳神経の活動性が上がってしまっています。依存症でない人が飲み続けて依存症になれば左の群のように、ここまで脳が変わってしまうという事です。依存症が脳の病気であることがこういう所からもわかります。写真をみただけで脳のあちこちが高ぶるわけですから、コンビニで買うつもりがなくてもつい手が出てしまう事情がわかります。だからこそお酒止めるのは簡単ではない、できるだけお酒のない環境を設定することがいかに大事かご理解いただけると思います。一旦こうなってしまった脳はお酒を止めれば右のように戻るかというと、そうはいかない。例えば自転車にのるには最初は補助輪付きで練習しなきゃなりませんが、一度乗れるようになったら10年ぶり20年ぶりでも補助輪なしで乗れますよね、運動の回路ができているから。一旦できた回路は消えないらしいです。同じように一旦依存症の回路が出来ると、何十年たっても、昔のようないいお酒との付き合い方はできないようです。病院で臨床やっていますと、10年ぶり20年ぶりにお酒飲んでしまったという方が時々みえますので、なかなか「治る病気」とは言い難い。ただ「回復が可能な病気」とは言えると思います。なんとか回復を目指していくのが大事かなと思います。
「アルコール使用障害の概念」実はアメリカ精神医学会では、アルコール依存症という診断名をなくしたんです。(2013年のDSM-5から)「乱用」「依存症」という用語がなくなり「アルコール使用障害」に一本化したのです。なんでわざわざこんなことしたかというと、依存症未満の乱用レベルの病態に対しても、医学的介入の必要性が認識されてきたからです。物質乱用は外傷、暴力、自傷・自殺企図の促進因子である。乱用の段階からこのような傾向がある。この段階から介入すれば、依存症に進行しないで済む。乱用はセーフで依存症はアウトという考えではなく、乱用の段階から介入する仕組みに変えたというのが一つです。またアルコール使用障害(ディスオーター)という名称に変えて、依存症(ディペンデンス)を使わなくなった。この病気に対する偏見を少しでも減らすためにです。日本でも「精神分裂病が統合失調症に」変わったように、「痴ほう症が認知症に」変わったように、病名変更で印象が変わったのに似ていますね。ただこれはアメリカでの話で、まだ世界的な傾向ではないのが現状ではあります。
「依存症に至る経過」生れつき依存症の方はいないわけでして、遺伝(酒を飲める体質)環境要因(飲める環境)があったうえで、何かしらお酒のメリットがある、ポジティブな体験をした人がお酒にはまりやすいと言えます。メリットを知った人が、人生の中で何か生き辛さを感じた時お酒に頼りたくなる。その結果、脳が変化して、依存症が形成されると。依存症になりたい人ももちろんいないわけです。最初は快を求めてお酒飲んでいた人が、依存症になっていくと、不快を軽減するためのお薬のようなものになる。依存症の人をご家族から見ても、決して楽しそうに飲んではいないすね、本当に苦しそうに飲んでいる方多いのではないかと思います。
「精神科病院で見てきたアルコール依存症の患者さん像」は重症の方が中心です。入院治療を必要とする、離脱症状が重い、併存精神疾患を有する、社会的逸脱行為が重い、低栄養や肝硬変を含めた身体合併症を有する、などの理由からです。しかし「最近は重症ではない方も受診されている」。それはメンタルヘルスリテラシーが徐々に進んできたおかげでしょう。最近記憶が飛ぶようになって心配、お酒を減らす薬が出たと聞いてきた、認知症なのか飲み過ぎの影響なのかわからないので調べてほしい、糖尿病の先生からお酒止めるように言われたのにやめられないから来た、うつ病の治療で病気休暇中だがうつ状態改善しないから産業医からの提案で来たとか。必ずしも入院を必要としない方々が来られるようになってきました。それを受けてアルコール医療も徐々に変化してきたと思います。「女性のアルコール依存症」も増えてきました。男女比は2003年に9対1だったのが、2013年では7対1となりました。女性の場合発症する年齢が若く、男性のピークが50代に対して女性のピークは30代です。加えて摂食障害との合併が7割というのも特徴的です。男性に比べて家族のサポートが少ないのも特徴的です。家族会を開くと、うちの夫がうちの息子がといって女性が家族としてくることが多いのですが、うちの妻がうちの娘がといって男性が家族として出てくることは少ない。家族のサポートが少ない中でご本人が苦労されているケースが多いという印象です。「認知症が合併するケース」認知症に関しても、最近は高齢の方の受診が増えています。団塊の世代の方がリタイヤしていく中でお酒の問題も増えているようですね。実際認知症なのかお酒の問題なのか分からないという方には、一旦入院していただくことをお勧めしています。しっかりお酒を抜いたうえで認知症をきっちり評価すると。認知症になってしまうと教育プログラムは実は難しいです。知識を得てお酒を止めていくということは難しいようです。じゃあ止められないかというとそうでもなくて、いろいろな研究でむしろ認知症を合併している方が断酒率が良いという報告もあるのです。その理由としては、断酒後の生活において葛藤が少ない。認知症もある程度進むと新しい事を忘れちゃうので、何か嫌な事やストレスがあっても比較的忘れやすいのではないか。あるいはお酒を手に入れる手段が、認知機能が低下したせいで昔みたいに巧妙にできなくなっているからではないか。実際私の外来にも「先生おかげさまで毎日ビール美味しくいただいています」という方がくるんですが、実は毎日奥さんがノンアルコールビールをあげていて本人全然気づいていないんです。初診の前の段階ではデイサービスには酔っぱらっていけなかったのですが、今はノンアルコールビールなので、毎日起きて週3回デイサービスに行っておられるという方もいます。こういうふうにいろんな工夫で断酒ができるのも認知症の特徴かなと思います。なので、年で先が無いからという事じゃなくて、十分元気を取り戻す可能性もあります。65才以上ですと介護保険も併用しながら回復を目指していただくのもありかなと思います。(以下略)
文責:伊藤