<2022年9月家族会報告>

9月17日(土)1時半~5時 24名参加(19家族) 初参加2名(2家族)

講師:山木克昭 精神保健福祉士 みくるべ病院 依存症治療チームリーダー

印刷資料「薬物依存症を正しく知ること」p18

 

みくるべ病院の山木と申します。今日は時間がたっぷりあるので、前半三分の一は薬物にどんな効力があるのか、後半三分の二は実際に治療はどんなことをしているのか、というお話をしたいと思います。僕は病院の家族会もやっておりまして、みくるべではzoom でやっているのですが、そこには医療に繋がっていない人もいるんです。そこで病院は普段何をやっているのか、ダルクと連携して何ができるのかとか、薬物の人は今後どうなるのかとか、そういうお話までいけるといいなと思います。

「その1 薬物の種類と怖さ 違法薬物は効果バツグン!」前半の薬物の効果の話です。覚醒剤とか大麻とかは、法律にひっかかる薬ですね。使い方によるとか、持っているだけでもとかありますが、必ずひっかかります。何故違法になっているのでしょうか。基本的には効果バツグンだからです。楽しいとか気持ちいいとかいろいろな効力があるんだけど、よく「依存性がない」という言い方するじゃないですか。だけどこれらの薬はメチャクチャ強い効力があるんですよね、その効力の代償として、離脱症状・禁断症状が出ます。薬物の人たちがなぜ薬をやめられないかというと、離脱症状・禁断症状があるからでして、僕ら人間ですから三大欲求ってありますよね、食欲睡眠欲性欲、ところが薬物とかアルコールとかの快感というのは、今の三大欲求を超えた、ぶっ飛んだ快楽をもたらすのです。この四つ目の欲求はすごいもので、「覚醒剤をちょっと好き」ってことはありえないのです。でもそれが抜けた時にものすごく調子悪くなりまして、これはとてつもなく嫌な症状なんですね。ご本人に聞きましょう、どんな具合でしたか?

(「動きたくても体が動かないですね。妄想的で警察に追われる感じはするし。それを消してシャキッとするために薬が必要になります。一週間も寝ないですから行動するために力が必要で、それの力を覚醒剤に借りてましたね。」)

「強い効力の代償=離脱症状」離脱症状の話をしてくれましたけど、一週間寝ないなんて普通の人じゃありえないですよね。僕は覚醒剤の話を一番最初に知ったのは原爆のマンガで、「はだしのゲン」で、主人公の友達が使っていたのを見て知ったのですけど、だいたいマンガなんかで覚醒剤がでると、幻覚妄想でウワーっと錯乱状態になるのをみますよね。僕が現場で仕事でみると、まず体が動かなくなるというものです。覚醒剤の効力はどんなものかというと、写真にコカインと覚醒剤がありますが、どちらも「アッパー」と言いますが脳を活性化します。爆発的な集中力というか、自分の能力を開放させるというか。また普段気分が上がらない人でも、何をしても楽しいと感じる。あと疲れないという。よく暴走族とかヤンチャやってる人たちが夜中寝ずに遊んでいたりしますが、中には覚醒剤を使う人もいます。調子が良くなりすぎて自分の体力自分の能力以上のことをしちゃうから、抜けた時にその真逆状態になります。何をやっても楽しかったのが、寝たいし起きれないし、という具合になります。トイレ行きたくても動けないから失禁したりもします。でもイイことも一杯あるので、だから魅力的でやめられないのです。

みくるべ病院に入院した人の状態でみますと、「最終使用後の症状と経過」のグラフにあるように最初の1週間で最大の「離脱症状」は過ぎます。全く動けない人から幻覚がある人妄想がある人、いろいろ症状はあります。こうした嫌な症状は2、 3週間かかる人もいますが、だんだん弱くなってきて、2か月たつとほぼ波は落ち着いて、なだらかな「情動障害」になっていきます。僕は静岡の出身で聖明病院で11年、みくるべ病院で7年仕事してきまして、薬物とアルコールで17年半くらい仕事してきました。僕が勤めていた聖明病院に僕のおじさんが入院してきました。この人は離脱症状が抜けるまでに93日間かかりました。でもその後の情動障害の方がもっと大変なのです。すごい高ぶってしまったり、すごい落ち込んでしまったりする。最近も芸能人の自殺がありましたが、離脱症状はすぎても、情動障害で自殺が起こりがちです。僕はこんなことはしてほしくないと思いながら、治療に当たっています。

「大麻はタバコより害が少ない?」次に大麻です。大麻草を乾燥させて10円玉みたいな色になったのをパケ袋に入って売っていますけど。大麻の元になる物を皆さん食べたことありますか?きっとあるはずですよ、麻ですから。麻の実は七味唐辛子に入ってます。鳥の餌にも入ってます。麻の茎と葉に毒性があるんですよ。そういうものですから、麻は使っているだけでは罪にならないのです。今大麻に関しては所持罪だけでなく使用罪も作ろう、という話になっていますが、どうなるかちょっとわからないです。10数年前にテレビでよく言われたことに「大麻は煙草より害が少ない、問題ないじゃないか」という説、僕はとても腹が立ちました。使っている人とか飲んでいる人はいいますよね、「酒とか薬に問題ないよ」と。でも実際に害はあります。大麻やマリファナを使っている人はどういう目的で使うかというと、スーパー安定剤として使う人が圧倒的に多いんですよ。例えば覚醒剤で眠れなくなった人が、ガタンと落ちる前に安定剤で大麻を使って寝たりする。これでクロスアディクトになってしまいます。最近そういう使い方する人が増えました。でもせっかく買った薬の効果を減じるわけですから、あまりそういう人は多くない。ダルクに来るような人たちは、薬が好きな人たちですからあまり余計なことはしたくない。単独で薬をたくさん使いたい人達ですからあまりこういう人は入ってこないですね。ただ女性の場合やっかいで、生理痛がありますよね、それを覚醒剤で誤魔化す人もいて、それでも効かなくなると鎮痛剤を使う、となるとグッチャグチャになっちゃいますね。

大麻の効果は、まず安定作用。よく眠れる。そして幻覚剤。楽しい幻覚が出てきます。僕が最初に会った大麻の患者さんは女性でした。外国旅行でマリファナに出会ってしまった人でした。病院で検尿のためにトイレの個室に入れたらなかなか出てこない。中でブツブツ話している。「トートーさん」と言ってるみたい。命も危険もあるので許可をとって個室を開けたら、(便器の銘柄)「TOTO」さんと話していたんです。本人にとっては楽しい幻覚なんです。覚醒剤にしろ大麻にしろ、楽しい幻覚はあるんですが、それが切れた時には真逆の効果、警察に追われているとか死神に襲われるとか、真逆の妄想がでてきてしまいます。ですから離脱症状が怖くて大麻を止められなくなってしまいます。だから「大麻は害がない」は間違いです。

「やめたら良くなるか」これが気になる事ですよね。これについては二つ覚えてほしい事があります。「耐性と逆耐性」。耐性って簡単にいうと打たれ強くなることですよ。ボクシングの選手は殴る練習もしますが、殴られる練習もします。お酒飲む人は覚えていると思いますが、最初は1缶で酔えたものが、だんだん増えて酔うまでに2缶3缶と増えていきますよね。薬物の場合もだんだん耐性がついてきます。最初は少しで効いたものがだんだん効かなくなってくるから、使う量は増えていく、だから体にはもっと悪いです。「逆耐性」というものもあります。グラフでみると、山と谷の部分で、谷の部分にあるのがいわゆる精神障害です。使った時は症状が激しくても抜けた時には症状がなくなるはずですよね。だけど何度も使っている間に、谷が上がってきて症状が固定化されてしまいます。使っていない場合でも使った時とおなじようになってしまって、それを薬物性の精神病といいます。さっき僕のおじさんの話をしましたが、93日かけて離脱症状は治まりましたが、アルコール性精神病になってしまいました。薬物も同じようです。これが取れないと、一生入院コースになってしまいます。病院の中でも離脱が過ぎても幻覚妄想が強すぎて、ダルクに行かせられないかなという人もいます。ただ、これが4年か5年かして消える可能性もあります。ホント分からないです。だから薬物アルコール依存症は早いうちにやめといた方がいいですね。

「フラッシュバック」という言葉もあります。結構間違って使われている言葉です。何年も使っていないのに、使っていた状態と同じ状態になってしまうことを、フラッシュバックといいます。主な原因は3つ、ストレス、不眠、飲酒。正直いってストレスでフラッシュバックという人は僕は知りません。でもうつ病とかで2,3日眠れなくてという人は簡単にフラッシュバックになります。幻覚や妄想が出ます。飲酒は覚醒剤とかやっていた人が、もともと飲酒の習慣がなかったのに、気分を変えようとお酒を飲んでフラッシュバックを起こすことがあります。ある人は覚醒剤からの出所祝いで酒を1缶飲んだばかりに、すごいフラッシュバックを起こしました。コンビニの駐車場で腹を何度も切りました。外科で治療した後にうちに入院しましたが、うちから退院後お寺に修行に行きますと言っていました。数年後、青木ヶ原の樹海で骨になって見つかったのがこの人らしいです。誰にも看取られず誰にも惜しまれずに、とても寂しい死に方でした。薬を使い続けた人はいい死に方をしないですね。

「意欲、判断の低下」薬物を使うとどうなるのか。まず生活が乱れます。意欲、判断が低下します。ここに清原の写真があります。この話をするのはとても嫌なんだけど、僕今でもソフトボールやっていますが、清原が大好きでした。初めてプロ野球の選手見たのは小学生のころ静岡のキャンプで、清原が目の前でホームラン打ってくれてひとめぼれしちゃったんです。その清原が22才の時ポスターに載って「覚醒剤打たずにホームランを打とう」と書いてあります。結局覚醒剤打っちゃったんですが。2枚目は7年かなジャイアンツのキャンプに清原が来たときの写真ですが、まあおかしいですよね、真っ白のスーツの上下にサングラスです。ユニホームかジャージで来るのが普通なのに、ヤクザと見間違えるような恰好です。薬物とかアルコールで精神状態がわるくなると、場にふさわしい服装ができなくなるんです。ダルクに来た人も最初は適切な服装や行動が出来ないと思いますが、周りがだんだん正常な行動をしだすとだんだんそれに習って変わっていきます。訓練で変わっていくものです。でもあまり薬物をやってしまうとこういう判断がつかなくなるのです。「意欲」に関してですが、僕などは9時から5時までといった仕事のルールがありますが、そういう約束事も守れなくなるのです。

「処方/薬局で購入できる薬」ここからは違法でない薬物。実は薬局で買える鎮痛剤、風邪薬、咳止め、睡眠薬の依存症の人がたくさんいます。語弊を恐れずに言えば、正直この依存症の人たちが一番タチがわるい。覚醒剤とか大麻とかは捕まるわけです。捕まってくれれば「やっちまったよ」という気持ちが本人の中に芽生える。もしかしたら治療するかもしれません。ダルクに行くかもしれないし、入院するかもしれない。だけど薬局で買える薬の人たちは、自分の金で買えるわけだし違法でもないし、やって何が悪いんだと思いますよね。これで問題になるのは、「用法・用量」です。一番おかしな使い方するのは鎮痛剤と風邪薬かな。ブロン依存症という人たちがいます。ブロンの成分を数十倍濃縮すると覚醒剤みたいになるんですよ。そんな薬をヤクルトみたいに飲んじゃう人、お菓子みたいにバリバリ食っちゃう人がいます。覚醒剤みたいな効果があるので夜中それを飲みながらゲームをしてたりという人達がいます。それは用法がおかしい。鎮痛剤に関しては女性の生理がありますが、用量を守らないととても危険です。生理の来る前に予約みたいに飲む人がいます。それを続けると耐性が付きます。使用量が増えてきます。鎮痛剤を飲んだ時が一番調子がいいという具合になります。飲んでトロッとする。これが切れると自動的に体に痛みが出てきます。いわゆる偏頭痛とか。バファリンとかロキソニンをバッグに入れている女性もいますよね。だけどそれが悪いとは思わないですよね。だから厄介なんです。睡眠薬については、僕はある時花粉症で薬をもらって、それが切れた時にひどい不眠になりました。4日眠れなかったけど、この仕事していましたからあえて睡眠薬は飲みませんでした。依存症になるのは嫌ですから。5日目に眠れて、あとは大丈夫でした。

(休憩)

 

後半、治療と回復の話にいきますが、その前に質問ありますか?

Q:ギャンブル依存症は治療していますか?

みくるべ病院ではアルコール依存症と薬物依存症をやっていますが、数年前にギャンブル依存症もやってくれないかという話がありましたが、僕は嫌だと答えたのです。できないと。実はこの「耐性」は物質依存症には成立しますが、物質ではない依存症には成立しません。実際ギャンブル依存症やゲーム依存症には、落ち着かないとか不穏とかはあるんだけど、幻覚幻聴とかはないんです。そうすると精神科病院に入れる時に強制入院という手が打てないのです。僕はそれは取れないなと思いました。法律違反をしてもいけませんから。ですから僕はギャンブルやゲーム依存は別物かなと考えています。

Q:エナジードリンクも依存症になりますか?

モンスターとかリポビタンDとかリゲインとかですね。あれってメチャクチャ濃い糖分です。普通にごはん食べて野菜や肉を食べていれば、あんなもの必要ないですよ。何か夜間イベントがあるとか、そういう時以外はいらないと思うんです。でもあれを飲み続けると、あれがないと頑張れないという風にはなりやすくなります。あれがないと満足感がない、だから飲んじゃうというのはあると思います。依存症になるかどうかわかりませんが、毎日飲むのは危険だと思っています。

Q:アルコールだと内臓やられますよね。薬物の場合は頭ですよね。薬物で内臓やられるということはないのですか?

本来は体に必要のない成分じゃないですか、覚醒剤や大麻は。それに結構刺激物ですよね。すると基本的に肝臓とかやられます。内科の先生に見せると臓器が衰えている人が結構います。一生病院で治療しなければいけないかどうかに関しては、分からないという言い方になります。同じ覚醒剤を使った人でも、打たれ強い人と打たれ弱い人といるわけです。お酒でもそうですが、覚醒剤でも薬に強い弱いというのはあるのです。

あと「ユキネタ」という言葉知っていますか?覚醒剤のランクを言います。メチャクチャ高いやつと安いやつがあります。その覚醒剤よりも安い奴が11年くらい前に流行った脱法ハーブですね。最上級の雪みたいにきれいな純度の高いいいネタを「ユキネタ」というわけです。これあまり大っぴらには言えないですけど、覚醒剤に対しては先生も上手に処方で改善させていくことができます。危険ドラッグは化学式がチョコッと違うだけのもの。これに対する処方薬治療がうまくできないのです。更に衝動性がすごく強いのです。自傷他害が簡単に起こります。自殺も簡単にできてしまいます。僕それを目の前でみて、危険ドラッグってやばいなと思いました。だから安いものは悪い(笑)、いや悪い物の可能性が高い、としておきましょうか。

「その2 治療と回復について」。依存症治療ブームというのがありました。H22年ノリピーの事件があった頃、あちこちの病院で「依存症始めました」と言い始めました。まるで「冷やし中華始めました」みたいにね。この薬物依存症って結構スピード勝負なのですが、入院させてくださいと言った時に依存症治療をする病院がたくさんあっても取ってくれない病院も結構あるんです。神奈川県の依存症治療の病院が集まるという会議に行ったら、数件しかいないだろうと思ったら40件くらい集まりました。そこで講演した後一週間くらいして、そこにいた病院から「この患者さん受けて下さい」と電話がくるんです。依存症治療すると言っていた病院ですよ。お宅で見ればいいじゃないというと、「受けられない」というのです。静岡でも同じような状態でした。ちょうどそのころみくるべ病院も依存症治療を始めたのです。6年前僕が来たときには依存症患者は2人しかいなかったです。しかも薬物の人がいないので実質ゼロです。依存症治療には30人かそこら人が必要なので、さらに家族も必要なので、人がいなければ絶対治療できないです。当事者同士が集まらないことにはまったく治療にならないから、こういった依存症治療ブームというのは結構厄介です。今もその名残があります。

「断薬or節薬」家族がどう思っているかですが、薬を完全にやめてほしいのか、それとも減らしてほしいのか。皆さんどう思われていますか?アルコール依存症の場合は完全に断酒といって、真っ白な状態でしか回復することはできません。病院やインターネットによっては、「節酒」といってお酒の量を減らせばいいと書いてあるところもあるけど、それは絶対にない。ノンアルコールビールといった、限りなく白に近いグレーの物に手を付けたら、次は奈良漬け、甘酒、発砲酒、ビールとなるわけです。一日で行くか時間かけて行くかの違いはあっても、必ず「一杯が、いっぱい」になっちゃいます。白か黒しかないのです。やめ続けるか飲み続けるかの二択しかない。覚醒剤や大麻にしても原則は同じです。覚醒剤依存症者にとって、お酒とか風邪薬は、さっきのノンアルコールビールみたいな位置になります。僕が病院から初めてダルクにつなげた患者さんがいました。その彼が冬ガソリンスタンドでバイトしているからって行ってみたら、ダウンジャケットを二枚きこんで厚着で働いているんです。聞いたら「僕風邪ひけないですから。風邪薬飲んだらすぐ覚醒剤に行っちゃうから」というわけですよ。その言葉は一番シビレましたね。

白と黒は、わかりやすい。でもグレーソーンを考えてほしい。必ず「一杯がイッパイ」になっちゃうから気を付けてほしい。本人は「一杯くらい大丈夫だよ」というのです。本人は「グレーは白だ」と言います。だけど僕はこの治療18年やってきて「グレーは黒だ」なのです。間違いない、グレーから良くなった人なんて一人も知らないから。3千人くらい見てきましたから。いまは「忖度」という言葉が蔓延していますが、この仕事していると嫌な話もしなきゃならないです。白と黒と、この判断を本人もそうですが、家族がしっかり付けられるようにしておかないと、僕はダメだと思うのです。家族にはせめて「グレーは黒」という事だけは知っておいてほしいです。

「早期発見・早期治療」という言葉、よく医療側でいいますが、なかなか難しいなと思います。「底つき体験」という言葉を家族会では聞きますか?底つき体験とは、アルコールや薬物を使ってすごく嫌な体験をする事。離婚とか、仕事なくなるとか、免許失うとか。死ぬ思いとか嫌な思いするのが底つき体験ですが、これをしないと病気と向き合わないじゃないですか。せっかく家族が早い段階で家族会に繋がったとしても、本人が底つき体験しないと、治療が始まらないのです。厚生労働省では「早期発見・早期治療」といいますが、僕はそうはいかないと思います。昔はアルコールでも薬物でも、「底つき体験しっかりしようぜ」といったものですが、今は「底つきしないようにしようぜ」と医療でいうようになったのです。国家試験でも「アルコール依存症には底つき体験が必要だ」と書いたら×ですね。僕はその試験は間違いだと思います。絶対に嫌な思いしない人は、回復にはなりません。ダルクのスタッフとか施設長さんとかって、基本的にすごい悪い奴なんですよ。さんざん薬物使って、家族を苦しめて、事やってきた人たちですよ。なんでスタッフやっているかというと、自分のためなんですよ。自分が病気の事理解して、すごい大変だなと思ったので、その体験を伝えたくてスタッフになった人たちです。中途半端な人はスタッフになれないですよ。いやな思いをトコトン味わうためには、家族が先回りしてはダメなんですよ。

「急がばまわれ」最初に医療にかかった時に、僕が本人にも特に家族にも言う事は「余裕をなくしてほしい」ということ。余裕のある人は人のいう事聞かないですよ。僕は家族にも焦ってほしいし、嫌な思いもてほしいし、「ドン底」みてもらわないと治療にならないですよ。家族はその場しのぎでの入院という事はあると思いますが、命守るためには、だけど最短距離で治療に結び付けようとはしない方がいい、急がば回れといいたいです。いろんな苦労を拾っていった方がいいと思います。自分が苦労した思いが人の苦労を察する力になります。それがのちに生きることになります。最短ルートで効率よくやろうとしちゃだめです。

「依存症治療にはなぜ入院が必要なのか」これに関しては「とにかく薬を切ること」です。薬物とアルコールの治療って、一旦切らないと次に進めないのです。精神科の病院とダルクの違いは多分ここにあるのです。ダルクで間に合うことと、病院が入らないとダメな事とあります。精神状態や離脱症状が強くなりすぎちゃっている時は、ダルクでも家でも無理です、病院に入って「保護室」に入って、そこで薬を切らないとダメです。精神科の入院は大きく分けると二つ、「任意入院と医療保護入院」あります。任意入院は本人の希望で入りますといって入院するもの。医療保護入院は強制入院です。幻覚があったり暴れちゃったりした場合、医療保護入院で入るしかないのです。最初病院で「医療保護入院でとる」といったら、大変な反対にあいました。でも薬物で入院する人が大変なのは、離脱症状の波が大きいからです、グラフにあるように、最初の1週間か2週間が過ぎれば普通の人と変わらないです。ただし判断力は下がっている。そしてアルコール依存症者の場合はわりと教養がある、仕事やったり学校行ってたり家族を持ってたり、社会生活を経て中高年になって入院するから、ルールを割と知っている。薬物依存の人達は割と早い段階で依存症になります。薬物依存症で一番多いケースは、「中学2年でシンナーやって、高校行かないか行っても中退して、覚醒剤使っちゃう」というのが一番多い。なんで中2でシンナー使うんでしょうか?先輩からもらうからです。中3になると受験もあるし責任もある。中1ではまだ小さいから怖くてそんなことできないです。中2の夏休みって部活のおっかない先輩がいなくなるから、好きな事やれるんですよ。解放感がすごい。中3の悪い奴がもってくる。それで中3をやって高校に入るかどうかのところで、他の事はみんなぶちまけちゃう、というわけですよ。だから教養が中学で止まっている。僕が今までみて覚醒剤で最高齢の人は50幾つの人でした。

「医療保護入院」が大事になります。今後医療に繋がっていない人たちは、10中8、9は医療保護入院でしょうが、任意入院で見てくれるという所も確保しておいた方が本当はいいです。というのは入院を受けいれるというのはスピード勝負ですから。任意入院が出来ない時には家族の同意が必要です。本人は入院したくないというとき、家族が医療保護入院に賛同してくれないと、入院には結びつかないです。家族会でもある程度そういう覚悟が必要であることを知っておいてほしいです。余裕をなくしたいという話をしましたが、それはこういう事です。ちなみに、全国の8割の病院では「本人が自発的に決めた入院しか意味がないですよ」と言われます。僕はそうは思わないです。薬やめることを富士登山にと例えると、富士山登るにもいろんなルーがトあるじゃないですか。入口は任意でも強制でもいい。

 

みくるべ病院にもさまざまなレベルの人がはいってきます。他の病院を追い出された人も受け入れるので、かなり多様な人がいます。ちょっと悪い人達がたくさんいるのと、すごく悪い人達がたくさんいるのとでは、後者の方が僕は好きですね。何故かというと「底つき体験」をしている可能性があるから。ちょっと悪い人たちは底つきなんかしてないからすぐ逃げ出します。法律的には任意入院の人達はいつでも退院できるんです。みくるべ病院では任意入院の人たちも、医療保護入院でうんと悪い人たちが、どん底から這い上がってくるのを見ると、あ、俺より悪い人も治るんだと思うんですよ。それが集団治療の良さです。これはダルクでも同じですね。ダルクの人たちが治療に入ってくれるのは大歓迎です。ダルクの人たちは、ミーティングで、「どのように悪かったか、どのように使いたいか」正直に話します。入院の人達はなかなかそうは言いませんね。こうして集団治療の波に乗せてしまうのは大事です。

(以下略)

文責:伊藤