<9月家族会報告>

2019年9月21日(土)午後1時半~5時 24名参加(20 家族)初参加4 名

講師:成瀬メンタルクリニック 院長 佐藤拓先生

田中代表 来月でデイケアができて丸6年になります。入寮者の断酒断薬の実施率は95%位ですか。相模原ダルクでは初期ステージの時期は、一人歩きができないなどかなり厳しい生活が特徴です。この苦しいけれど同じ釜の飯を食う共同生活を経たおかげで、完全に断酒断薬に至るのです。卒業生も出すことができました。将来的な課題は自立ですね。親に頼らず生活できること。経済的自立にもまして大事なのはアルコールやギャンブルを手放すことです。うちには色々なタイプの人が来ます。依存症による引きこもりが長ければ長いほど、人間関係が難しく自立困難になります。ここには年齢も職業も病気も色々な全く違う人間の集団があるので、この中でもまれて成長していけるのです。ある卒業生の例ですが、薬の問題があって静岡まで迎えに行って入寮させたものの、次に仕事するために何千円必要だとかいって親から金を引き出そうとするのです。それはそれで本気なんです、僕もそうでした。しかし仕事ができるかどうかが問題じゃないんです。今の社会は豊かですよね。仕事がなくても飢えて死ぬわけではない。けれど好きな仕事に就ける人なんてそういません。豊かな社会でゆとり教育のせいかどうかわかりませんが、仕事を選ぶとか言います。実際は生きるための手段で選べません。うちの寮生活は、親払いの人も生活保護の人も同じ生活をしてもらいます。ステージ初期の時期は支給される生活費も少ないですから、お金の大切さを身に染みて感じるはずです。24時間同じ顔触れの生活の繰り返しです。先ほどの子ですが、一日でいいからダルクに居ろといって入寮させました。一緒に寝起きして、毎日「帰る」「あと一日」の押し問答。甘い物や美味い物を食べさせて。当時は自分の事しか考えてない子です。来たとき70㌔台だったのが、100㌔ぐらいまで太りました。少しづつ回復の意欲が出てきてくれて、3年くらい居て回復が進んで町田の寮長になったんですね。ところがある時寮の子が万引きして捕まりました。すると「すいませんでした、寮長の僕の責任です」と謝ってきたんです。「俺がよくみていなかったから捕まってしまいました」と泣くんです。それを見て、変わったなと思いました。自分の事しか考えなかった子が、寮生のことを思い、自分の責任と考えるまでに成長したのです。それからは、本人の希望する仕事を許可して、卒業して今はちゃんと社会で自立を果たしています。依存症の回復には落とし穴がいっぱいあります。彼女のこととか仕事のこととか。それを断ち切って仲間と密度の高い生活をしないと止まりません。自分さえ良ければなどと考えていたら、早く出ようなんて考えていたら、薬物なんてやめられないですよ。本人が変わろうと思わないと。ここに留まり人のために動こうという気持ちにならないと、薬物はやめられないですね。僕がダルクに初めて入寮した頃、施設長レベルの人、断酒断薬10年とかの人が「やめているのは今日一日だけです。薬物は本当に怖いです」とかいうのを聞いて、それじゃしょうがないじゃないかと否定的に思ったものです。しかし今後、僕だってダルクを離れたら、付き合いで酒をのむかもしれない、スリップの危険があります。経験を重ねる中で、身に染みて再発の恐ろしさを思うようになりました。ご家族と触れ合って、家族会の大切さも考えるようになりました。うちは施設主導の家族会ですけど、ナラノンや地域ごとの家族会もあります。そういう場はとても大切ですね。この病気になって、ご家族は近所の手前や、お金のことや、本人の将来のことや、お父さんもお母さんも大変傷ついていますよね。それを癒すのは傷ついた家族同士の関わりです。僕ら本人に自助グループがとても必要なのと同じように。精神科の問題もあります。今病院が処方薬を配りまくっています。処方薬を出さない病院は儲からない仕組みができてしまい、良心的な病院がなかなか儲からないのが現状です。しかし100年前はどうでしょう。その頃の精神科は治療法と称して、火あぶり、水攻めが行われていました。信じられないでしょうけど本当です。今は処方薬が主流です。50年後はどうでしょう、薬が主流かどうかわかりません。治療法はどんどん変わるのです。そんな中でダルクの治療は、しっかりした卒業生を、100%断酒断薬した人を、いかに送り出すかにかかっています。回復した人材を社会に出すのです。この治療法は時間と手間はかかりますけどやるしかないです。

 

今日の佐藤先生は、依存症全般をみていただいていますが、最近は万引きの子もみていただきまして、常日頃。5年のお付き合いになります。先生はカウンセリングをよくして下さり、診療に時間をとって下さる、ありがたい存在です。生きづらさ、トラウマと言った点は依存症の根っこにありどんな依存症にも共通しますが、そこに焦点を当てて下さいます。

 

 

 

佐藤拓先生 私は一般精神医療機関でギャンブル問題をみています。ただ初回でギャンブルで治療に導入するより、様々な社会資源を利用してもらい、どこかで行き詰った場合、違う視点で別の形の支援を提供するという形をとっています。相互支援グループですとか回復施設ですとか、家族会とかいろいろな介入拠点がありますね。そちらが上手くいかない場合、うちはスタッフも多くもないので、私の方から精神科医として何かヒントを提供できればと思っています。

 

一般的な精神疾患の治療にあたるときに大原則があります。「エンパワーメント」です。これは「その人自身の潜在的な能力を引き出し、自身の生活や環境をコントロールできる能力をつける働きかけをすること」ことです。「その人自身が持っている力を引き出す」ところが中核でして、こちら側の指示をおしつけることではなく、いかに引き出すべきかです。キーワードは「安心と自己肯定感」です。ギャンブルの方は過剰にギャンブルにのめり込む事で心のバランスをとっているわけです。それは戦略としては誤りなのですが、どのようにそこに介入して変えていくかです。作業としては「自信を取り戻す」ということになります。ご本人もご家族も疲弊しきった形でクリニックに来られます。自信もなくしたままでは、安定した生活の再建も望みようがありません。

 

本人への支援として、まず考え方をシフトしてもらうことが必要だと思います。来られる方々はなんらかの形で失敗をした気持ち、反省と後悔を持っていらっしゃる。「我慢する」といいます。3ケ月はガマンできるかもしれない。でも半年は、1年は?それは無理だと気づきます。そもそもギャンブル依存がどうして起こるかというと、「対人関係の圧力を感じやすい人がバランスを崩して依存におちいる」わけです。ストレス発散の手段として行われる。むしろ我慢と逆の方がいいのではないか。「対人関係の圧力から解放されるような、自分への継続的なストレスマネジメントを行う」という我慢しないプランを提案してみます。そもそもストレスとは何か。医学的にはストレス刺激とストレス反応に分かれます。生物には体の内部環境を一定に保とうとする仕組みがありますが、それを乱そうとするものをストレス刺激といいます。刺激に対して体の内部から起こる反応をストレス反応といいます。私たちは自分へのストレス刺激に私たちは無頓着ではありませんか?ストレスであること自体を意識することがマレなのです。意識してないストレス刺激に対する対処法が、ギャンブルやお酒であることが多いです。「なんでギャンブルにはまるのかわからない」という人が多いです。何がストレスになっているのかわからなければ「二度としない」と誓っても意味がないですね。仮にストレス刺激に無頓着であるならば、対応策は二つ。何にストレスを感じるのか明確にする。二つ目は対処法の選択肢を増やす。発散の方法を工夫する。そういうことを一緒に考えていくことで、回復の糸口が見えてきます。

 

精神科臨床の一般にいえることですが、先に体の問題がないか、心理社会的理由がないか、見つけて軽減することも大事です。体の不調がコントロール不能の原因になっていることがあります。心理社会的問題とは、職場、家族、金銭等の問題で不安でたまらないことがあります。それらの対処をしつつ、精神的支援として、心理検査をします。その人が何にストレス感じているかを明らかにする。得意なこと苦手なことを把握する。それから相談室なり自助グループなりへ結び付けていきます。体の問題で見逃されやすいのは、パニック障害と低血圧の鑑別です。逆流性胃炎、睡眠時無呼吸症候群、鉄欠乏、その他の栄養不足などです。心理問題で大きいのはやはり金銭トラブルの問題。金銭の不安が解除されないと診療どころでないことがあります。幸いうちの近隣には理解ある司法書士の先生が多いので、専門家として「金銭問題は大丈夫です」と言ってもらうことが安心につながります。「借金の返済は細く長くがいい」と言います。ギャンブルの方には借金が残っているというのは抑止力になります。返済しきるとさっぱりしてギャンブルしたくなる。かといって月々の返済が大きすぎると負担感が大きくてまたギャンブルをしたくなる。また家族間の貸し借りはしない方がいいです。親から借りた金は何とでもなる。借金の問題はしかるべき場所でしかるべき相手に謝罪するほうが良い。家族は金の専門家ではないし、家族の方にはコントロール欲求がでてきて、それが嗜癖の刺激になる。貸すよりは上げたほうがよっぽどましといいます。債務問題、この日本で借金で命とられることは絶対にない。これが知っておくべき一番大切なことです。金銭対応の難しいところは、本人の様子をみていかないとベストかどうかわからない点です。実は今の事が全く分からないという人もいます。わかるけど行動に繋がらない人もいます。そういうことのわかる債務問題の専門家がいると、すごくわかりやすい。医療機関だけで対応しようとするとうまくいかないです。実はお小遣いを週払いにするとか、金銭管理の日程管理をしてもらう、それだけで落ち着く人もいます。一方でそういう管理されることがストレスで、中には犯罪行為に至る人もいます。

 

うちのクリニックでのやり方ですが、ストレス原因の特定と、ストレス対応の選択肢を広げることから入ります。ギャンブルをやっている理由を聞くと、人によって違います。「お金が儲かること」「一時的に大きなお金が入ること」「負けず嫌い」「征服欲が満たされる」「光や音の刺激がいい」「人間関係に悩まされない」「気持ちがリフレッシュする」「論理的思考が満足される」「居場所」「イライラモヤモヤが消える」「スリル」。ギャンブルやる理由は二つ以上であることがほとんどです。金を稼ぐに特化してギャンブルする人は、パチプロとかは医療機関には来ないでしょう。「お金を欲しいくせに負けず嫌い」。どっちかにしてほしいですよ。映画館に行ってお金取り戻そうとする人はいないですよ。「目的が複数あるから止められないんじゃない?」とご本人に問いかけてみます。「やめたいといいながら続けてきたのは、ギャンブルで助けられてきたからじゃないの?」ならば我慢ではいかに無謀かわかりますよね。「一緒に別の修正案をさがしましょう」と勧めます。話し合いで探る方法がいいです、上手くいかなかったとしても余り問題にならない。「どこに無理があったんですかね」と次の方法を考えることができる。共同作業でやっていくと本人を責めないですみます。

 

本人にかかるストレス刺激を明らかにするために、心理検査が有効です。ウェクスラー成人用知能検査(WAIS-Ⅲ) を用います。これはいわゆるIQ、知能指数を測るのですが、「言語理解、知覚統合、作業記憶、処理速度」の4面で数値が出てきます。誰でもばらつきがあるものですが、バラツキ程度がその人のストレス環境を示します。言語理解とは、日本語の力、ことばの力ですね。知覚統合とは論理的思考力と空間認識力。こうすればこうなる、といった考え方の力です。作動記憶とは単純な記憶力です。パッと言われたことをパッと記憶する力は人によって違います。処理速度も遅い人と早い人でかなり差があります。持っている時計の速さといいましょうか。この検査によってその人の得意と苦手がわかります。その人のストレスもわかります。本人と家族と援助職がそれを把握してこの人のストレス対策を練ってあげる。今まで「何がなんだかわからず苦しかった」人が、「ああそういうわけで私は苦しかったんですね」となるわけです。ご家族にもああこのように支援してあげればいいんですね、と解りやすくなります。この利点は、陰性感情(嫌悪感や敵対感情)が薄まること。これはすごく大きいです。

 

苦手な能力がある事の世界観を想像してほしいのです。言語能力が低い人は、おしゃべりしていても楽しくない。おしゃべりでストレス発散は難しい。何に困っているんですかと聞かれても答えられない。こういう方に対しては、コミュニケーションの必要のない環境を作る、または本人の言葉を代弁できる人を置く事で楽になります。知覚統合が低い人は、物事の優先順位をつけるのが難しい、問題解決能力が低い。物事を考えないわけではないが、その人自体のやり方で考えていて、それを否定されてきたことが多い。そこで間違っているかもしれないけれどまずは聞く。そこで関係性が出来て、それから助言していくと、すっと入ることがあります。職場や日常生活でスーパーバイザーを見つけるといい。作業記憶が低い人は、短期記憶に困難があります。日々刻々と仕事が変わる環境は辛いですね。どうしてもしなければならない場合は、メモ魔になり習慣的に見てやっていく。こういう人は診察しても積もっていかないのですよ。このくらいわかってるかなと思っても、まったく理解できてなかったりする。処理速度が低い人は、せかされる環境にストレスを感じます。仕事を急がされたり、もたもたしていると言われると、他の機能が良くてもまったく機能しなくなる。「マイペースが大事」と言い聞かせます。周りから急げとせかされた時は、表向き「ハイハイ急ぎます」と言っておいて、心の中では「こんな時こそマイペース」と自分に言い聞かせたらいいよ、と助言します。その方が結果的に上手くいくことが多いです。

 

実は能力が高いのも問題になります。言語能力が高いと、つい言葉で人を攻撃したくなります。知覚統合の高い人は、論理的思考が好きだから正しさでネチネチ人をせめます。作動記憶が高いと様々なことが気になってしまい、切り捨てる能力に欠けます。気になることばかり増えて解決能力がおいつかないから、変なところで不安になります。処理能力が高い人は他の人のスピードにストレスを感じます。他の人に行動を抑制されることにストレスを感じるわけです。衝動性に結び付くらしく、短絡的な行動につながりやすい。

 

最近は発達障害という診断も良く行われていますが、ギャンブルの問題で活用する場合は、診断の確定に用いるのではありません。私はこういうことを「障がい」ととらえるより「周波数」と考えてほしいのです。能力が低いことも高いことも含めてその方の性格です。こういう性格の人が快適に機能できるような環境を作るためにはどうすればいいか提案をしたい。その人にストレス少ない環境をどうやって作るかのヒントです。そして良い状態を作れたら、ギャンブル障害はどうなるだろうか。ここから症例ケースです。(省略。)

 

ここから家族への支援です。色々なご家族のお話を聞いて気になることがありますが、主訴はギャンブル問題を何とかして下さいですが、本当にそうなのかということです。私の苦しみをどれだけわかってくれるのですか、という方。ギャンブルをどうかして下さいというわりにはギャンブルそのものはあまり関係ないように感じられます。状態が深刻化したことの反映でしょうか、被害金額とはあまり関係なく夫婦ズタボロです。チキンレースの感じがする。チキンレースとは映画「理由なき反抗」に出て来ますが、車に乗って崖に向かって走り、先にブレーキ踏んだ方が負け、ブレーキが遅すぎれば崖から転落してしまう、というゲームです。どちらが辛いか競いあっている。私はもっと辛い、俺だって苦しい。こうなると客観的状況を冷静に受け止めることができない。大したことないスリップでも、人生終わったかのように感じてしまいます。解決の最初はチキンレースをやめることです。自分にとって楽しいと思える時間を増やす事。そんなこと許せませんと言われます。本当にギリギリの方は追いつめられてしまっていて動かせない。ご本人の場合でもご家族の場合でもありますが、まずは同情して聞いてあげることからしか始まらない。そういうときに大切なのが家族会、自助グループですね。苦労させられている相手のために、なんで自分が行かなければならないのかと思われるでしょう。でも心にゆとりをもてるようになります。

 

「家族間葛藤は両価性の問題」といいます。嫌いになったけど好きなところもある。好きだから迷惑も一杯かけられた。まったく相手の事が嫌いなら切ればいい。でもご家族だから切れない。しかし感謝していることや迷惑かけたこと、両方を引き出していくのです。不満を処理しながら感謝も表現しながら、外来における内観カウンセリングです。本人、家族、それぞれに思いを十分に出したら、段々糸口が開けてきます。また使える社会資源は何でも使って、ゆとりを見つけて行きます。

 

日ごろ大切に考えていることが三つあります。ギャンブル問題への対応を説明します。それに対するご本人やご家族の反応とそれをどう評価するか。あとは関連機関と繋げることです。私の意見を押しつけることは全く必要ないです。大切なことはこちらの話を聞いたことによってその方の中で何か反応が変化がおきること。その方が考えたことを拾い上げることがエンパワ-メントにつながるのです。大切なのはやり方でもメソッドでもありません。何がその方の問題の原因なのか、何が変化に繋がるのかは、実はよくわからないです。こちらが思ったものは自信をもって提供しますが、最終的には本人がそれについて考えたことを尊重して、回復能力を引き出していきます。ご本人が考えた道を、失敗も含めて見守っていくことではないかと思います。

 

質問:先生はなんで心理テストをこういう本人によりそう手段に使えるようになったのですか?

答え:精神科病院は入院するとこういうテストをしますが、結果は貼ってあるけど何に使うかわかりません。ある勉強会で心理担当の方が、心理の構造として話して下さったのです。それでうちに非常勤できている心理担当の人に聞いてみたら、こういうことですって教えてくれたんです。実は外部の機関に委託して検査するんですが1万2千円かかります。本当はこれでも安いくらいですが、検査費用としては高いですよね。それだけ払っていて何もなかったですはないですよね。何らかの道具には使いたいし、無理な方には無理と言ってあげた方がご本人にとって良いと思うんです。

 

質問:家族も本人も変わらなくちゃと思うけど、今のお話しをきくと、あ、この辺は変わらなくてもいいんだと思えて安心します。これでわかっただけでスットする人はかなりいるんじゃないかと。患者さんに寄りそうお話がきけてよかったです。

文責:伊藤