<4月家族会報告>
2019年4月20日(土) 午後1時半~5時 25名参加(19家族) 初参加4名(3家族)
講師 相模原ダルクプログラムディレクター Sさん
質疑応答
Q 依存症からの回復には「底つき」が必要と言われてきた。家族は本人の支援をやめて突き放しをしなさいと言われてきた。最近は「底上げ」という話もきくので混乱している。
A 依存症は否認が強く、交差依存に走る傾向もあり、本人が病と向き合うのがなかなか困難な病気である。「底つき」とは本人が病でどん底状態を味わった挙句、変化への行動を始める転換点の事である。本人が自分から回復したいと望み、行動を変えない限り底つきは起こらない。それが何時どこで起こるかは予測しがたいが、概ね頼る相手がなくなり、回復した仲間に出会えた時に起こる事が多い。AAなど自助グループの中で使われてきた概念ある。
家族や本人の周囲の人は本人の回復を望むあまり、人を援助するつもりで依存症を助長してしまうことが多い。依存症の病気に巻き込まれ、「共依存症」という過剰な世話焼きと過干渉癖に陥っているからである。家族にとっては辛いことであるが、いったん援助を打ち切り「本人の問題は本人に返す」「本人の責任は本人がとる」ように仕向ける必要がある。そうでなければ、いつまでも依存から自立への転換が起きない。それは見放すことではない。家族の自助グループの中では「愛をもって手を後ろに回す」と表現されてきた。
ただ物質依存の場合、心身の健康を損なうので「底つき」までにあまり時間がかかりすぎては、後遺症が大きくその後の社会復帰が困難になる。場合によっては命を失うこともある。その点を医療機関サイドで憂慮し、底つきを早めるための工夫がいくつか開発されている。本人向けの「動機付け面接法」や家族向けの「CRAFT(クラフト)」などである。この10年ほどの動きであり、日本でも一部医療機関や精神保健福祉センター等で実施されて、効果を上げている。早めにターニングポイントを迎えることを俗に「底あげ」と言ったりするが、「底つき」概念が消えたわけではない。
Q テレビで依存症関係番組を自動録画しておいたら、「万引き依存症」というのが入っていた。有名選手が病気を告白するシーンもあった。クレプトマニアともいうらしいけど、新しい依存症か?
A 「窃盗症」「クレプトマニア」という依存症の一種で、昔から存在した病気。DSM-5には放火症とともに掲載されている。物を盗もうとする衝動に抵抗できなくなる行為障害である。犯罪、司法領域にかかることもあり、今まであまり表ざたにされてこなかった。摂食障害の人、アルコール依存症、買い物依存症の人が交差依存で起こす事が多い。依存症の中でも物質依存や関係依存とはちがう、「行為依存(プロセスアディクション)」に分類される。ギャンブル依存症やゲーム依存症と同類である。一部医療機関で治療が始まっており、自助グループもあるが、まだあまり知られていない。刑罰で止められないのは薬物依存症と同じである。
Q ピエール瀧さんの逮捕関係のテレビを見ていたら、あるダルクが取材されていた。入寮者は口をそろえて「回復の支えは家族」と言っていた。やはり家族の支援は回復に必要ではないか。あなたの帰りを待っていると伝えることが支えになるのではないか。
A 家族の存在は確かに支えになるが、長い病気の果てに家族を失った孤独の人が回復出来ないというわけでもない。AAの回復体験では「妻が離婚してくれたから、今の俺がいる」「電話する相手がゼロになった時がターニングポイントだった」という話はよくきく。その場合自助グループが疑似家族として、支えになるようである。アメリカの依存症専門家によるセミナーでは、せっかく本人が施設で回復しても、家族が病気のままだと、本人を家庭に戻したくても戻せないと言っていた。再発してしまうからである。家族も「共依存症」という病気にかかっていることを自覚して、過剰な世話焼きと過干渉を止めてほしい、本人が戻ってきたときに迎えられる健康な家族になっていてほしいと言っていた。本人が病院や回復施設に入って回復の道を歩んでいる間に、家族も家族会や自助グループで癒されてほしい。そして依存症についてよく学び、病的な家族関係を健康なものに変えておくことが、一番本人のためになるのではないか。
文責:伊藤