<12月家族会報告>

2019年12月21日(土)午後1時半~5時 22名参加(19家族)

講師:高橋洋平弁護士 (APARI嘱託研究員 高橋洋平法律事務所)   (パワーポイント使用)

 

田中代表 こんにちは、無事たどり着けましたでしょうか。新しい事務所に移って初めての家族会です。まだ引越してバタバタしていますが、昨日忘年会をしまして43名で美味しいもの食べました。そして施設長の高澤さんを専務理事に、マネージャーの金田君を施設長に任命しました。新しい体制で始まったところです。今芸能人の薬物の事件がテレビを騒がしていますが、ダルクに電話して手っ取り早く回復させるなんてできない話で、やはりこういった施設に毎日通って治療しなければなりません。薬を飲んで治る病気ではありません。家族も薬物依存症を学んでご本人への対応を学んでいただく必要があります。今日の高橋弁護士は7、.8年のお付き合いになります。今月施設長になった金田君も高橋先生が連れてきたんです、6年前くらいですか。これが言うこと聞かないでお酒飲んじゃ暴れて、刑務所いって戻ってきて4年だよね。そして今施設長です。治療の中で性格も変わらなきゃいけないですが、埋め合わせとして具体的に、親に肩代わりしてもらった弁護士費用を毎月何千円単位で返すというプログラムをやっています。金田君は高橋弁護士に4回弁護してもらったのですがタダで。(笑い)いくらか知りませんがうちの職員になってから毎月お返しするということをプログラムとしてやっています。

 

弁護士の高橋洋平と申します。東京で弁護士をしています。事務所は新宿にあります。今金田さんとの出会いを紹介していただきましたけど、最初はちょうど年末の今頃ですよね、世田谷の警察署で。特に何も話さない大人しい印象でした。あ、そういえば、その前の田無の警察署が最初の出会いでした。この時はすぐに釈放されたので1、2回会ったくらいでしたが。年末の寒い時期で行き場所がないからどうしようと思っていたところに、ちょうどその前にダルクを作りましたという話を田中代表から聞いていて、それじゃ、何かの縁と思って、相模原ダルクを紹介したのがきっかけでした。霞が関の検察庁で金田さんが釈放されて、田中代表に確認したら、相模湖まで自力で来てくださいと。それで本人に聞いたら行くというので、じゃ気を付けて行ってきてねと。でも本当に相模湖まで行くかなと思いながらでしたが、ちゃんと相模湖まで行ってくれました。年明けすぐにダルクまで会いに行った時に、金田さんがテキパキと働いていて美味しいカレーでもてなしてくれたことを今でもよく覚えています。こうしてダルクに馴染んでしっかりとプログラムをこなして順調に回復すると思いきや、そうならないのが依存症なんでしょうね。その後、確か仕事するということで仮(?)退寮することになって、田中代表とお祝いでステーキを食べに行った後にすぐに逮捕ですからね。その事件は何とか弁護を頑張って釈放されたのに、その後、再び逮捕ですからね。その時はもうダルクにはお世話にならない!とか言ってたような。この時の裁判で実刑になるのですが、その後の対応は田中代表に任せました。自分があれこれ言うよりも田中代表の言葉の方がきっと心に響くと思ったから。田中代表とつながっていればきっとどこかで変わるのではないかという思いでした。そうしたらですよ、金田さんは今や施設長になったというではないですか!私が弁護した中で一番の出世頭ですね。そうなると金田さんの出世は私の弁護のおかげも少しはあったかなと思いたくなりますね(爆笑)。

今日は、弁護士の仕事という観点から簡単に刑事事件の流れを確認しながら、刑の一部執行猶予、そして、法律相談のこと、などについてお話ししたいと思います。

まず弁護士の仕事ですが、民事、家事、刑事の領域にわかれますが、ポイントは依頼者の代理人ということです。ですから本人の意思決定を重視して動くものです。民事訴訟とか家事事件とか、それぞれ代理人として動きます。刑事事件でも加害者の代理人だったり、被害者の代理人だったりします。例えば、薬物事件を考えると、これはちょっと複雑になることがあって、本人は仕事したいと言い、家族は依存症は病気だからリハビリ施設に行ってほしいと言っていることがあります。この時、弁護士は本人の代理人なので、本人がリハビリは嫌だと言うと、リハビリしなさいと説得することが難しくなるのです。私はNPO法人APARIの嘱託研究員をしているのですが、そんな時に、APARIのようにコーディネーターという立場から本人のために治療が必要であることを説明し、治療を勧めてもらえると対応がしやすくなりますね。これは私のやり方になりますが、事件を受ける時にまず本人がどうしたいのかを確認します。ダルク行きたいとか治療したいとか言ってる人はダルクや病院を紹介すれば済みます。そうではない場合は、たとえ家族の希望があったとしても本人を説得するのがなかなか難しいと思うことがあります。ただ、最近思うのは、本人がなぜリハビリ施設に行きたくないのか、なぜ仕事を優先したいのかということを考えると、一つには情報がないからではないかと思います。リハビリ施設がどういう場所なのか、プログラムとはどんなものか、今国はどういう政策をとっていて、民間の施設はどういう支援をしているのか、何にも知らないからなんですね。誰でも知らない所には行きたくないものです。それで心掛けているのは、なぜリハビリが必要なのか、なぜプログラムが必要なのかということを、せっかくこれから裁判を受けるわけだから、その機会に理解をしてもらおうとできるだけ丁寧に説明するようにしています。そうすると、もちろんすべてではないですが、かなり多くの方が、そっか、自分は治療が必要なのか、リハビリが必要なのか、費用もこうなっているから大丈夫なんだということを理解して、自分から施設に行ってみようかなと言い出したりします。私はこんな話を弁護の中で話したり、ワンポイントで説明してほしいと頼まれて話に行くこともあります。

こんなことを経験したことがあります。国選の弁護士がついていたのですが、本人が「決めました、ダルクに行ってプログラムやります」と決意したのに、その弁護士が「ダルクって何ですか、あなた仕事しないつもりですか、何を考えているのですか」と言い出し、「リハビリとか言ってないでまず仕事でしょと。病気とか言ってごまかさないで、働きなさい」と説教し始めたことがありました。また、別の弁護士ですが、一応の理解があり、まずは治療やリハビリが必要であるとは言うのですが、「ダルクだけはやめたほうがいい」と言う方もいるんですね。そんな弁護士に限って「ダルクって薬物を使った人が行く所だから、あなたもどうせ使いたいんでしょ」とか、「そんな所に行ったら薬物を使うだけだ」とか言い出すのですね。また、「あなた病気なんでしょ、だったらダルクではなく病院に行きなさい」という方もいますね。そして、有名な医師の名前をあげて「その先生に診察してもらうようにしなさい」とか。治療の必要性を理解してくれるのはいいけど、誰がどうやって本人をその病院に連れて行くんでしょうか。通院するのはいいですけど、病院以外の時間はいったい何をすればよいのかって話ですね。そう考えると、わかったふりをしていても実は何もわかっていない弁護士がほとんどだと思うし、そもそも弁護士は支援の専門家ではないから、支援の理解を求めるのがいけないのかもしれません。ですから、いち早くちゃんとした支援者につながってほしいと思っています。大切なことは、弁護士は私選でも国選でもいいのですが、一緒に悩んでもらえる弁護士だといいんじゃないかと。わからないから悩むし、悩むからダルクのような支援者に早くつながってもらいたいと考える。自然なことですよね。だから、私は、私一人では大したことはできないと考えるから、できるだけ早い段階でダルクのスタッフに会ってもらうようにするのです。そうすることのメリットは支援のネットワークが広がることですね。ダルクの施設長、スタッフ、仲間、そして、多くの支援者とも出会える。そんなネットワークが広がっていく場を提供したいと思いますね。ダルクにつながるといってもその形態は入寮だけではないと思うので、本人がまずはトライしやすい形から入っていくとよいと思います。出会いが大切で出会うことによってその後の人生が大きく変わることもありますからね。

さて、刑事事件の流れですが、まず薬物所持や使用で逮捕される。その後、10日ないし20日の勾留になります。親としては急に本人と連絡がとれなくなり、どうしたのかなと思っていたら警察から電話がある。弁護士が本人と接触するのは逮捕や勾留された後が多いですね。最初はお金のかからない当番弁護士であるかもしれません。家族としてはここからが悩みで、仕事をしていた方であれば職場に伝えるか、誰に言うか等は非常に悩むところだと思います。これには正解がないですね。また、家族の話をあまり聞かない弁護士も多いですね。そのためか、弁護士を変えたいという家族からの相談もよくあります。ただ、先ほども言いましたが、弁護士は本人の代理人なので本人との信頼関係を第一に考えなければならないから、家族のために動くとなると難しいこともありますね。そこは、柔軟な対応が必要になってくるところですが、内容によっては、家族の話の中に解決のヒントがあることも多いので、まずは家族の話を聞いた上で対応を考えていく方が将来よい方向に向かうことが多いようにも思います。

ここで弁護士を依頼する場合ですが、本人は捕まっているので家族が費用を出すことが多いと思います。ただ、家族会等で本人の尻ぬぐいをしてはいけないと叩き込まれていると、弁護士費用も出すのもよくないという話を聞くのですが、確かに本人の我がままな要求に対応するだけの弁護士であればそう思いますが、事件をきっかけに本人を支援につなげる弁護士であれば、それぞれの家庭の経済事情はあると思いますが、本人の尻ぬぐいには当たらないと思いますね。もっと言えば、確かに国選であれば費用が掛からないケースが多いですが、正確に言うと、国選は絶対無料というわけではなく、費用負担をさせられることがありますし、長い緩やかなお付き合いと考えれば、私選で弁護士を頼んだとしてもメリットは多いのではないかと思います。薬物事件に詳しい弁護士を選ぶこともできますし。また、本人はもちろん、家族にとっても私選の弁護士の方がいろんなことを相談できますしね。薬物事件の場合は依存症ゆえに何度も捕まることがあるので、過去の経過を知っている私選の弁護士の方が家族として相談しやすいということはあるのではないかと思います。

話を続けると、勾留されて、起訴されると裁判になります。起訴されないと釈放になりますが、薬物事件の場合は、じゃあよかったねではなくてリハビリ施設に行ってほしいと思いますね。その後の再犯の可能性を考えれば、刑務所に何年行くよりもよっぽど有益な時間になるからです。

そして裁判ですが、家族の中には情状証人でしゃべったという方もおられると思いますが、できればやりたくない役割ですよね。ほとんどの弁護士は家族に情状証人をお願いしますし、私もお願いすることが多いです。ただ、私のやり方としては、他にいないから家族にお願いをしたいのではありません。どのように考えるかというと、せっかくの裁判なんだから本人を主人公に本人の回復という目標に向かってそれぞれの立場で何ができるかを考えてもらう。支援者だけでなく家族もその一員となって。裁判という目標があるから泥臭い話もできるし、将来をイメージしながら回復のシナリオも考えやすい。もちろん、嘘はダメですが、数か月の裁判期間、裁判という共通の目標に向かって、支援者だけでなく家族もその一員として、裁判のシナリオを悩みながら考えながら作り上げていく。人間なのでいろいろなドラマがあるわけです。そして、裁判本番に支援者だけでなく家族もその役割で演じ切ってもらう。最高のパフォーマンスには最高の結果が伴うことはいうまでもありませんね。大切なことは裁判段階から将来の回復の道筋を考えて、裁判後の将来を具体的にイメージしていくことでしょう。裁判の結果はもちろんですが、それだけにとどまらず、将来の回復の具体的な道筋をしっかりと示すことができることが大きなメリットになるように思います。だから、裁判に関わる支援者や家族には全力で演じ切ってもらう必要がありますね。それをプロデュースするのも弁護士の役割ではないかと思うのです。ただ、家族が裁判に関わることも本人の尻ぬぐいになるのではないかという意見もあると思いますが、何もしないで将来に不安を感じているだけであれば、本人が主人公の裁判という舞台の中で何か役割をもって演じることも一案ではないかと思うのです。これを逃せばなかなかこういった機会は作れないですし、目的は本人の回復の道筋をしっかりと作ることであり、本人を甘やかすことではないので。例えば、上手くいった例としては、逮捕された時は、本人と家族の関係はひどいもので、家族がしたことは薬物事件に詳しいということで私を弁護人に選んだということくらいでした。そんな家族にはちょっと迷惑だったかもしれませんが、保釈をとって病院に行ってもらったり、自助グループに行ってもらったりと、家族みんなを巻き込んでいろんなことやりました。私が家庭訪問して家族と一緒にご飯を食べながら、薬物からの回復の話をしてみたり。そういう経過を裁判で訴えたところ、実刑が予想された事件でしたが、何と驚いたことに執行猶予になったんです。そういう努力が結果として出てくると、本人もその後の人生を頑張るんですね。もちろん、裁判の結果で人生が決まるわけではないですが、執行猶予になった本人は家族と仲良く回復の道を歩んでいます。裁判時にいろんなお膳立てをしたことが後によい効果をもたらしました。上手くいかない例としては、これはよくあるパターンですが、裁判の時に出所後にダルクに行きますと言っておいて軽い判決をもらいながら、しばらくして豹変し、ふざけんなダルクなんか行くもんかと言い出し、支援者や家族、そして、弁護士までにも文句を言い出すケースです。ここまで極端ではないにしても、ダルクに行くことを条件に軽い判決をもらっておきながら、それを守らないパターンはけっこうあると思います。ただ、そういう方もその後、2回、3回と逮捕されて、支援者が関わった方が刑が軽くなるだけでなく、その後の人生も変わるんだという考えに至ると、本人からやっぱりダルクに行きたいと言ってくることもあるので、タイミングが少し早かったと理解するようにしています。焦らずに待っていることが大切になります。

刑の一部執行猶予ですが、平成28年6月から始まりました。依存症は病気だという理解も広がり、また、刑務所の過剰拘禁の問題もあり、刑務所に出た後に社会内でのプログラムにつなげる工夫として導入されました。これまでの判決では懲役2年なら2年間刑務所。一部執行猶予というのは、刑務所と執行猶予がミックスされている制度で、懲役2年なら1年半刑務所で、半年は執行猶予にしますという合わせ技。再犯率が高いから刑務所に入れておくだけではよくならない。実刑部分の一部分を執行猶予にして長期の保護観察をつけて社会内でプログラムをやりなさいということです。ただ、依存症が病気だというのであれば、病気で具合が悪い時に、保護観察所に行く人はいないですよね。普通は病院やリハビリ施設に行きますよね。そんな限界もわかっていて、保護観察のプログラムの中にダルクのスタッフを呼んでやったりしているので、だったら保護観察所ではなく、ダルクに行けばいいじゃないかと思ったりしてしまいますね。今後、この制度もだんだん変わっていくのではないかと予想しますが、こういった制度の変革がある中では、ますます正しい情報を理解し、それを提供していく必要があるように感じています。

最後に法律相談についてお話します。弁護士が関わる場面としては、薬物事件の場合は刑事事件としてかかわることが多いのですが、そのほかに法律相談から入ることもあります。よくあるのは借金の相談。借金して薬物を買ったり、家賃を滞納していたり。他にもいろいろな相談があります。相談をよく聞いてみると、薬物だからではなくて、人が生きていくうえで抱える問題ということの方が多いです。人が亡くなれば相続の問題とかもありますよね。問題があれば誰かに相談することはよいことで、法律問題であれば弁護士に法律相談ということになるわけです。もちろん、弁護士であれば誰でも法律相談に対応できるわけですが、薬物特有の問題もあるので、相談する弁護士が薬物問題に詳しい方がよい方向に結果が変わることもあると思います。弁護士はその問題のどこに争点があるのかという視点で話を聞きます。そして、どのようにその問題を解決するかと。でも大切にしたいのは一緒に考えていくことではないかと思うのです。例えば借金の問題ですが、これを解決する一番簡単な方法は返済することですね。だから弁護士は本人が払えなければ家族に払うことができるかを聞くわけです。これまでさんざん借金の尻ぬぐいをしてきた家族にですよ。家族の経済状況では払える家族もいるでしょうが、問題は今返済していいのかということでしょうね。家族をATMマシーンだと考えている本人が早く返済しろとニヤリと笑っているわけです。だから、時には返済をしないでブラックリストに載るようにすることも必要かもしれません。何が正解かはそれぞれで違うので、私は本人や家族とともに悩みながら考えていくことが大切だと思うのです。問題解決のプロセスを重視するということです。そのためには、まずは相談、次も相談、さらに相談、それでも相談です。相談した方がよいかを相談してもいいと思います。簡単な相談であれば、携帯で繋がる弁護士がいると便利ですよね。ただ、弁護士は逮捕された後のことは得意ですが、逮捕される前の対応は基本的に苦手ですね。私も経験ありますが、本人と連絡を取ることさえ難しい方っていますからね。それでも、逮捕されてその後刑務所に行くことを考えると、やはり刑務所に行かない人生の方が予後の経過がよいように感じます。だから、私は何度も振り回されたこともありますが、できれば逮捕前に本人と出会いたいと思うのです。そして、もしダルクにつながったとすれば、回復のチャンスが広がりますからね。家族にとってもいいことだと思いますね。私としてもとても難しい課題だと思いますが、逮捕前に支援につなげる試みとして支援チームを作って関わっていきたいと思っています。回復のバトンを支援者に渡すことができたらいいなと思っています。依存症は病気だから刑務所では治らないです。いくらよい制度ができたとしても刑務所を前提にすると同じことです。だからこそ再使用したとしても捕まらないほうがいいのです。この日本では使い続けて捕まらない人はほとんどいないと思います。捕まる前にダルクのような回復施設につながってほしいと思うのです。

以上、雑駁な話でしたが、これで今日の話を終えたいと思います。何か相談があれば個別でも対応しますのでぜひ来てくださいね!

              文責:伊藤