<12月家族会報告>
30年12月15日(土)午後1時半~5時 22名(17家族) 初めての方2名
講師:駒木野病院アルコール総合医療センター センター長 田亮介先生
高澤施設長挨拶:大腿骨の骨折で10月15日入院しまして、12月13日退院しました。皆さんには大変ご心配おかけいたしました。まだ万全ではありませんが、自己リハビリしながら回復して行きたいと思います。
代表挨拶:高澤さんが2ヶ月入院されていましたが無事復帰しました。家族相談の面談も今日からお願します。最近は寒くなりまして退寮のパワーはなくなるのか落ち着いています。年末年始はお正月をゆっくり皆で楽しむ事をしたいと思います。相模原ダルクが開設して丸5年、デイケア開設して4年。まるで土地勘のない場所で始めて最初から田亮介先生にはお世話になりました。精神科でお世話になる者は多いので駒木野病院さんなければこのダルクもないというくらいです。季節により状況により処方薬も変わってきます。まるで職人のように処方を調整していただき、こまやかにお世話になっている先生です。
みなさんこんにちは。駒木野病院の田です。(パワーポイント使用)ダルクさんとは長年のお付き合いです。平成11年から駒木野病院におりまして、多摩立川保健所での酒害相談も担当しています。中心は病院に来てからの治療ですが、それ以前の保健所との関わりをもっていますと、本当に大変な病気だと思います。
駒木野病院は高尾山のふもとにある病院です。八王子市には精神科病院は18あり、精神科病床だけでも4000床。世界一ではないかという密度の精神科医療環境です。緑は豊かです。毎年9月のフェスティバルでは色々なイベントをやっており、相模原ダルクのエイサー演舞はダントツ人気の演目です。
平成29年度に新規に受診された方の種類ですが、依存症と統合失調症がどちらも11%くらい。躁鬱病が18%、適応障害が24%ですが、これは児童精神科を含むからです。児童は5才から診療しますが、不登校などが起きると適応障害と診断されるからです。
駒木野病院では古くからアルコール医療をやっています。東京都の補助金事業の第1号として昭和60年4月に専門病棟を作りました。今はその病棟はやめて「アルコール総合医療センターALMeC」に改編し、患者さんの状況によってどの病棟を使ってもよいことになりました。「センター」の機能としては、専門外来、入院プログラム、家族プログラム。スタッフが流動的に動くことで、地域との連携もスムーズにできているかなと思います。
家族支援では、アルコール講習会、家族会、駒木野懇談会、CRAFTがあります。土日に行われまして誰でも参加OK、診察券が無くても参加できることにしてあります。そこに地域の保健師さんが来たりすれば地域連携も自然にできます。場合によっては初診をお待たせしている間にご家族もアルコール講習会に参加して頂いて、そのフィードバックを初診に利用するという使い方ができます。CRAFTというのは最近流行りの家族支援の方法ですが、「コミュニティ強化法と家族トレーニング」の略です。この目的は1)患者さんが治療につながること。2)依存物質の使用が減ること。3)感情、対人、身体で楽になることです。
アルコール依存症への誤解はまだまだ多いです。「嘘つき」「だらしがない」「意志が弱い」「止める気がない」「仕事をしているから違う」「自業自得」だとか。「スティグマがある」とも言われます、負の烙印です。依存症と診断されたら終わりだ、という感が日本社会の中では強いですよね。「公衆スティグマ」は一般市民がおす烙印。「自己スティグマ」というのもあり、精神疾患の人が他の人から差別をうけていると感じてしまうことをいいます。こういう中でなかなか患者さんが医療に繋がれない状況もあります。それが支援や治療回復の遅れに繋がっています。何とかこういうところを変えて行きたいなと思います。
依存症は「脳の病気」であることを認識しておくのは大事です。意志や性格の問題ではない。「身体依存」と「精神依存」がありますが、アルコールは他の薬に比べても依存性が高い方です。アルコールは「依存性薬物」の一つです。他の薬物は法的な規制があります。覚醒剤しかり大麻しかり。しかしアルコールに関しては規制がない。だから安全というわけではない。
「誰でもなりうる病気」です。私でも一定期間一定量摂取すればアルコール依存症になります。これは猿でも作れます。社会で活躍している人の背後に、芸能人とか政治家とか著名人の事故や病死の背景にアルコール依存症があることがあります。報道の中でもひと時話題にしてあとは何事もなかったように切り捨ててしまう、まだまだ残念な社会です。むしろこのような人か回復しましたと言って復帰できる社会になるといいなと思います。
依存症の診断基準。「ICD-10」という診断基準では6項目のうち3つがあてはまれば異常と診断できます。世界共通の診断方法です。まず渇望(やめたくてもやめられない。強制的飲酒欲求ともいいます)次にコントロール障害(飲んじゃいけないことがわかっていてもやめられない)。禁断(離脱)症状。耐性の形成、飲酒レパートリーの狭小化と連続飲酒。有害にもかかわらず飲み続け繰り返してしまう(飲むたびに倒れてしまったり喧嘩したりするのですが、反省が足りないわけではないのです)。
難しいのは、渇望とか有害にも拘らず飲み続ける、というのは体験したことがない人には理解し難いものですね。注意事項として「アルコールの量はさほど重要でない」とあります。毎日一升飲んでも普通に社会生活やっていける人もあるし、一合のんでも毎度失禁という人もいる。個人差がとても大きいのです。
依存症になる経過で大事なこと。遺伝と環境。アルコールを飲める体質や飲めない体質はあります。環境とは、地域によってはお祭りで子供でも飲むのが当たり前の所もあります。お酒が身近にある環境にいて試してみた時に良い事があった人、例えば空しい気持ちが和らぐとか、眠れるとかの効果を感じた人が依存症になりやすい。何かを埋め合わせるためのお酒になってしまうと依存症になりやすい。これはアルコールに限った話ではないですね。薬物でもギャンブルでもそういうことがあります。生きづらさの解決を人に頼らず、自分でなんとかしようとして繰り返す。
脳が機能的に変化してしまう病気。アルコール依存症と、機会飲酒者との脳の活性化を比較した脳の写真です。依存症でない人がお酒を飲み続けると脳が機能的に変化してしまう事がわかります。一旦こうなると、10年断酒していても再び飲んだらまた止まらなくなります。補助輪なしで自転車を乗れるようになった脳は、10年ぶりでも20年ぶりでも、再び自転車に乗れますよね。運動回路ができているからです。
本当に多面的で複雑な病気だと思います。依存症と診断するのですけど、背後に認知症、知的障害、発達障害、ADHD,双極性障害とか、いろいろな障害がある場合があります。それ以外の事もきちんとアセスメントして、どういう支援が必要なのかということをふまえていかないと、依存症の回復もうまくいきません。個別の関わり方も大切だと思います。
慢性、進行性、致死性の病気です。世の中に様々な疾患がありますが、お酒によってたくさんの病気が起きます。WHOによると年間死者が330万人。一日あたり1万人位です。なんとかこの問題を改善しましょうとWHOでも呼びかけています。
本人の気持ち。本人は「このままじゃ良くない」「なんとかしたい」と思っています。断酒できてない=止める気がないと思われがちですが、初診まで来た患者さんは、止める工夫をしてきた人がほとんどです。再飲酒=止める気がない、のではなくて、止められないのです。一方で、「止める自信がない」「止める自分が想像できない」「止めたらストレスが大きすぎるのではないか」と思っています。自分の自尊心を守る為に、「止めると宣言しきれない」気持ちもあります。飲む事を正当化したい気持ちもあるのです。
一人一人医者がきちんとした知識をもって対応していけばいいのですが、まだまだ「かかりつけ医師にちょっとなら飲んでいいよと言われた」とか、残念な反応もあります。専門的医療機関がきちんと啓蒙していくことが大切なのではないか。
治療の目的と手段。最終的には断酒です。アルコールの必要のない生活がふつうになる事ですね。完治はないが回復は可能だと言われます。治療の三本柱。これは利用者さんが経験知として伝えてきたことです。専門外来、自助グループ、抗酒剤、の三つです。このうち「抗酒剤」(シアナマイド、ノックビン)とはアルコール分解過程に作用して人工的に下戸にする薬です。
その他の治療薬として「レグテクト」は5年くらい前に出た薬です。脳の報酬系にきいて欲求をやわらげる薬です。これから出る治療薬ですが「ナルメフェン」は新タイプの頓服です。2時間前に飲むと多量飲酒にいかないそうです。うちでも治験に参加しましたが、ある方はいつも飲めば3次会までいくのが、1次会で帰ってきて、結果的に翌日すっきりでした、と言っていました。
自助グループや回復施設の必要。ダルクさんのような回復施設は非常に大事だと思います。やはり同じ経験をした仲間はとても大切です。理由として「仲間の発言の方が受け入れやすい」「主体性が引き出されやすい」「他者とのコミュニケーションがとれる」「個人的に接するよりも集団の方が危険が少ない」「集団の中で評価される」「集団の中で一般社会の偏見から解放される」「他のメンバーと接することで自己を客観視しやすい」といったことがいえます。ご本人は最初止めている自分を想像できない。しかし自助グループの中に回復した人をみて希望が持てるのですね。素顔でコミュニケーションできる。集団の中で評価される。一般社会では断酒しても評価されないですよ、当たり前だと言われる。止め続ける大変さをわかってくれる仲間がいて、1カ月止めたのすごいねえと評価してくれる。これはうれしいです。そして昨日止めた人から10年やめた人まで、様々な断酒段階にある仲間がいる。だから続けられるのです。
入院の効果。駒木野病院ARP(アルコール・リハビリ・プログラム)教育入院です。ご家族の期待はありがたいのですが、病院でお酒をやめさせることはできません。糖尿病の教育入院というのがあります。食事やインシュリンの使用法を学んでもらいますが、入院して学んだことを退院してから生活に生かすのは結局本人です。生かさなければ元に戻ってしまう。アルコールも同じことです。
退院予後。これは久里浜病院追跡調査のデータですが、退院して二か月半で実に約半分は再飲酒してしまうというデータがでました。衝撃的な結果です。逆に最初の3ケ月間に、抗酒剤のむとか自助グループに通うとかきっちりフォローしていけば、その後の再飲酒はかなり防ぎやすくなるのです。
関連問題。医療機関として体と心の病気をきちんと扱うのは当たり前ですが、他に家庭の問題、職業の問題、経済、対人関係、生活基盤の問題、犯罪のこと、等々関連する問題がたくさんある場合のがふつうです。少なくとも入院中にこれらにアプローチすることは大事だと思います。そういう時PSWがかんでくれて、一緒に考えてくれることが大事です。逆にそういう問題解決がなくてポンと退院させてもまた飲んでしまう、入院体験が無駄になってしまいます。
病院に行く理由。僕は初診の時に、なんで病院に来なかったのか、なんで来たのですか、と聞きます。「どうせ酒止めろと言われるとわかっていた」「依存症と言われたらお終わりだと思った」「止める自信がない」「自分で何とかできると思った」という答えが多い。来た理由としては「かかりつけの先生に勧められて」「産業医の指示で」「家族が心配するから」「やっぱり自分でもどうにも止まらない」「このままでは死んじゃうんじゃないか」と言った答えが多かった。
本人に受診を勧める際に。今日お集まりのご家族のためにお話しします。本人が医療になかなか登場しない病気ですね。受診を勧めるには「試しに行ってみよう」「完全に止める必要はない」「辞めたくないと言ってもいい」「鬱とか元気なさそうだね、ダルそうだね、眠れてないね、痩せて来たよね」とかそういうことからでもいいです。来ていただけばこちらもなんとかしますから。受診するときのキーパーソンを探すといいですね。ある方は2才のお孫さんが「お酒やめて」というのを聞いて、2才の子供がお酒という言葉知っているので愕然として、来ましたとおっしゃいました。転倒や骨折で入院したとかがあればチャンスで。医療機関同士の連携で繋がる人もいます。少なくとも駒木野病院ではご家族相談も受けていますので。
断酒は必要なことですが、治療から離脱させないことが大事です。ある日パタンと来なくなってしまうのが一番心配です。本人なりのペースがあるので、昔は止める気になってから来てくださいと追い返すようなことがありましたが。病院に来たのは困っているから来たのであって。余り喧嘩にならないようにします。9月に「新しい治療ガイドライン」が更新されました。そこに面白い言葉がありました。「まず飲酒量低減を目指し説得は試みるが、ドロップアウトは避ける」というのです。断酒が一番いいのは確かですが。余り戦わない。本人がこれだったら出来そうだと思うことをやってみる。それが出来なかった時はこっちの提案を検討してもらう。治療目標は変化する。初診段階で断酒を決意した人は半分位として、4回目の受診で、断酒を決意した人が増えている。何度か受診する中でこれはやっぱり断酒した方がいいなと思う人が増える。これは治療継続した成果です。
再飲酒時の対応。失敗とみるより「症状」として見て下さい。飲む病気ですから。30年ぶりに2週間断酒した人がいました。次の2週間のうちに残念ながら飲んでしまった。すると奥さんが「嘘つき」と。それで悔しくてまた飲んじゃった。がっかりですね。2週間の断酒を評価してあげたらどうでしょう。一喜一憂しない。一番がっかりしたのは本人ですから傷が浅いうちに対処して、臨時受診を受けてほしかった。
認知症合併の人が増えてきました。高齢の方もふえてきて。団塊の世代の方がリタイアして趣味もなくお酒に走るケース。認知症合併のケースでも酒が抜けたらすっきりしちゃった人もいます。むしろ認知症の方の方が上手く言っちゃったケースもありです。認知症によってストレスが減ったようです、嫌なことは忘れちゃうから。認知症だから酒を買う巧みさが減ったりして。奥さんが飲むビールをノンアルコールにすり替えてしまったら、すっきりしちゃったケースがありました。だからあきらめる必要はないです。
「依存症の反対はしらふではなくつながりである」。新たなつながりをふやしていく。人とのつながり仲間の存在が大切な疾患なのかなと思います。
家族のかかわり方。正しい知識を持つ。家族が健康であること。支援する側の健康度は大切です。
否認の病、都合の悪いことは否認したくなる。人間らしいといえば人間らしいですね。誰でも人に指摘されるのは嫌なものです。酒さえ飲まなければいい人なんですけど。でもきちんと向き合って考える事が大切です。家族が巻き込まれてしまうことが特徴の病気ですね。家族が暴力を受ける、家族ぐるみの病気。なんで私が病気なのと。家族も不健康になりますよねという表現。家族の恥という表現をする人もいます。他の病気ではないことです、ご家族の皆さんも孤立してしまう。勇気出して家族に相談したら逆に責められたとか。
ご家族の状況も、ご家族からの見方も変化している。困った人、いなくていい人、いない方がいい人。
家族もどんどん疲弊してしまう。
対応の原則。「家族が止めさせることに限界がある」専門家の助けをかりてよいのです。「辞めるのは本人」「病気で飲んでいる」「相手の領域には立ち入らない」基本的に本人の問題です。飲む飲まないも、薬を飲む飲まないも、本人にまかせましょう。「病気が言わせる言葉」を見分けて下さい。本人の心からではない言葉に傷つかないこと。「相談できる仲間をみつけ、孤立しない」本人に自助グループが大切であると同じように、似たような経験をもつ家族のつながりは大切です。「自分の生活を大事にする」ご自身の健康も大事にしてください。
親の立場の方へ。親の問題は親自身の責任で解決していくもの。子供が負うものではありません。線引きが必要です。親として自分をせめてしまう人はおおいですが、依存症は育て方ではないです。正面から受け取らないでください。手放す事も大事、全部してあげる事が支援ではないです。
地域にも様々な資源がありますので、活用して下されば。
質疑応答
Q うちの叔父が薬物からアルコールに行き、早めに逝ってしまいました。このように移る人がいるのですか?
A アルコールから薬物の人は少ないですが、薬物からアルコールという人はそこそこいます。アルコールで見ている患者さんが実はギャンブルもと言いだすケース。ニコチン依存も病気と言えば病気です。アルコールやめたあとに、煙草やそれまで食べていなかった甘い物がやめられなくなったりとか。依存症は脳がどれから喜ぶかですから。喜ぶ他のものにシフトする。健康的なものに嵌る人もいます。マラソン、トライアスロン、仕事とか。軌道修正が必要な人もいますが。生き方のバランスが悪くなるのは考えものです。
Q ノンアルコール飲料は有効?
A お酒が入ってないから酔えない。それで本物の飲めると錯覚しちゃう人もいて。中には炭酸飲料全て止めるという人もいます。引き金になるから。
Q どんなに問題を起こしても、法的な規制はできないものか?
A 煙草も酒も禁止することはできないですね。飲まないほうが良い人はいますね。酒乱の人、飲むたびに低血糖症をおこして倒れる人、重大問題を起こす人。距離をとることはできても、使用できないようにする方法は限界あります。
Q 酒乱と依存症は違うのですか?
A 酒乱というのは酩酊が病的なこと。年に一回しか飲まなくても異常な行動をする人は酒乱ですね。でも依存症とはいえない。でも合併する人もいます。
Q 統合失調症と合併している方の治療、ケアは?
A 基本的にうつ病でも統合失調症でも、原疾患をきちんとコントロールすることが大事。皆さんがたそれぞれ生きづらさがあり、それを軽減するためのお酒です。その人の日中活動をどう支援するか。デイケア、訪問看護、完全にやめたほうがいいし、薬とも相性がよくないので、いろいろな社会資源を組みあわせて少しでも酒の害を減らす工夫を。健康診断のデータを見せて、これはすごいと褒めるとか。
Q 完治はありえますか?
A 何を持って完治とするかが難しい。元の脳に戻す方法は今はないです。20年やめて再飲酒したとしても、20年やめたことが無駄だったわけではないですよ。施設のスタッフさんしている人など、生き生きして、人間的回復を見せてくれる人がいます。病気であるが医学を越えた次元のある病気ですね。医学的寛解にはあてはまらないけど、精神的霊的な回復ってありうると思いますね。人の変わるところをたくさん見られるのが、個人的には面白いです。是非回復した人の話を聞いて欲しいですね。それがモチベーションになります。
私が治療に関わっていられるのは、たくさんの回復した人を見ているからでしょう。こちらが救われる思いがとてもします。
文責:伊藤