<2022年10月家族会報告>

10月15日(土)1時半~5時 28名参加(23家族) 初参加なし

講師:成瀬メンタルクリニック院長 佐藤 拓 先生

「当院における嗜癖問題への支援」 印刷資料A4 1枚

実は最近、私ダイエットをしまして、3か月前から10㌔痩せました。(えーっと賛嘆の声)自慢じゃないですけど(笑)。何故それを始めたかというと、3、4年前にアキレス腱を切りましてその後膝を悪くして、多分変形性膝関節症だと思うのですが、正直歩くのもままならなくなりまして、さすがにこれはまずいと。周りの人に聞いてまわって。医療機関に行けばちゃんと通院してくださいと言われるだろうけど、そうもいかないので、ユーチューブの動画をみて、まず歩き方から直そうと。できるだけ足を真っすぐに高くあげて踵から着地する、足の外側から着地すると痛くないんですよ。そのほか体操などもして少しずつ良くなり、少しずつ動けるようになってきました。膝が痛いというと、必ず体重減らしなさいと言われるらしいですね。食事の管理なども大事ですね。私は糖質を減らすと体から水が抜けるように体重がへっていくんですよ。3、4㌔は結構早く減って、そこでいったん止まります。ダイエットといえばリバウンドが起きやすくて、糖分を控えたところで脂肪が筋肉に置き換わっていかないと痩せないという話です。じゃあ筋肉をつけるためには、運動も大事だけどたんぱく質を取った方がいいという話で、いろいろなたんぱく質を取ってみました。また食事量を減らすと脂肪は減るけど筋肉が減ってしまうと。だから食事は増やした方がいいと言われて、食事の頻度を増やしてたんぱく質を多くとるようにして、だんだん良くなってきました。このやり方が正しいかどうかは実はよくわかりません。ただ自分がこの問題を何とかしなきゃいけないなと思ったのはあります。今までも痩せろと言われたことは何度もあります。(笑)妻からも子供からも何度いわれても馬耳東風、何も響かずでしたが、歩けなくなったのでさすがにこれはまずいと、自分で考えるようになったのですよ。自分で考えるきっかけができて、自分で問題に向きあうようになり、他の人のアドバイスもききながらあれこれやっていくと、自分自身の変化につながった、という話であります。

これまで何度かこちらにお呼びいただいて、「うちのクリニックではこういう事やっています、こういう考えでこういうやり方をすればいいんじゃないかと思います」ということをお伝えしてきました。ただ「私のこのやり方を皆さんが理解しないと皆さんはいい方向に行きませんよ」とやりますと、聞いている皆さんは途中から分からなくなっちゃうと思うんですね。1から10まで私が説明してしまうよりは、私が断片的な情報だけ与えて、その途中に関してはご自身で考えていただくようなやり方の方が意外といいんじゃないかと。その方が話が皆さんに入るような気がするのです。あくまでも人の話というのはヒントでしかない。行間を埋めるような作業はご自身たちで考える方がいいのでは。これはいわゆる嗜癖問題を抱えている当事者の方も、ご家族も通じるのではないかと思いました。そういうわけで今までは資料を何枚も用意してきたのですが、今年はシンプルにしてA4の一枚だけにしました。比較的簡単な話を今日はしていこうと思います。

 

1 嗜癖問題が生じる背景

私は、セルフケアということを私たちが教わってこなかったからじゃないかと思います。社会人としての義務とかやるべき事とかは教わるんですけど、自分自身が精神的負担とか身体的負担を感じた時のケア、これが大事なんだよという話は、正直あまりなかったんじゃないかと。どのようなセルフケアは適切で、どういうセルフケアはリスクがあるという事がわからないままに、お酒やパチンコ等のコントロールが効かなくなってしまうのではないか。最初から皆さん身を持ち崩そうとしてやったわけではなくて、自己治療的な目的でアルコールやギャンブルに接するわけですよね。どこかのタイミングでコントロールが効かなくなった時に、どのような対応が適切かという知識のなさゆえに、コントロール不全の状態を放置してしまう事になってしまうのだろうと。

嗜癖問題は能力の高さ低さに関係なく起こるという事が知られていまして。能力が低い方は社会生活を送るにあたって支障が起こりがちです。例えば人とのコミュニケーションに負担を感じるとか、問題が起きた時にも解決ができなくて人から非難されてしまうとか。そいう事がネックになりやすいですね。能力が高い方は人との交流にストレスを感じないかと言えばそういう事はないわけで、能力の高さ故にそれなりに責任のある立場に置かれることが多くて、それで感じるストレスは大きいのですね。嗜癖問題ではギャンブルを良く診させていただいているのですが、能力が高い人の方が被害額が大きくなる傾向が強い。能力が低い方の場合は、少ない額で金銭的に破綻してしまう事が多いのですが、能力の高い方は、人からお金を借りたり用立てしたりという力も高いので、それが余計に借金を呼んで大きくなります。表面的に取り繕う状態は維持できるけれど、裏で借金がとんでもない額になってしまいます。大王製紙の社長の方が100億カジノで使ってしまったというのが話題になりましたが、私たち100億なんて用立てできませんよね。

ストレスケアについては、自分自身がどういうストレスにどのくらい負担を感じるのかを知って、どのように対処したらよいのか考えておく必要があるのですよ。これは結構難しくて、ストレスを感じていることをきちっと理解して、その対処法もきちっとやる。出来る人には出来るのですけれど、能力的に出来ないという方もいらっしゃるのですね。私どものクリニックの方で、ウェクスラー式知能検査というIQを測る検査を提案させていただくことがあるのですが。その中で論理的思考力を測る項目があって、100が平均で70を切ると障害とされるのですが、85を下回ると自分自身のストレスに対して自分で考えて適切に処理することが難しいのではないかと感じています。そういう方は信頼できる他者からの提案を受け入れて、「あなたはこういう事に負担を感じているかもしれないね」とか、助言を受けいれて生活していく方が乗り切りやすいと思います。ある程度の能力がある方は、それほど他者によらなくても自分自身のストレスを分析して対処方法を考える事ができるのですけれど。しかし過剰な責任がのしかかっている時とか、相手との関係性で重くなっているとか、ちょっとした崩れによって、ストレスマネジメントが崩れてしまう事が良く起こります。ですから他の方々との関係性の中で自分自身を見直していく必要性があるのだと思います。

自分自身が抱えている責任とかよりも、自分自身の置かれているポジションと向き合う事のほうがすごく大事なのだという事が伝わるといいと思うのですが。なかなかこれが、言葉でいうのは簡単なんですが、それを継続してやっていくのがすごく難しいと。そこで2番の自助グループやリハビリ施設の利用に繋がります。

 

2 自助(相互援助)グループ、リハビリ施設の利用

自分の負担を客観視することが難しいと感じていただくことが大事です。例えばコミュニケーションにおいてストレスを感じる事は多いものです。声が大きすぎるとか、一方的に言われるとか、断定的な物言いをされるとか、分からない理屈で一方的に話をされるとか。でも仕事で聞かなきゃならない話は、イヤだと思いながらも聞こうとします。上司ならその指示には従って仕事はしなければいけません。でも私はイヤだと感じているわけです。そこを認めようという話です。イヤだと思うことは見過ごされやすくて、仕事上仕方ないからと、自分自身が感じている負担はついつい見過ごしてしまいやすいですが、そういったことも自助グループや回復施設でのミーティングに参加すると、客観的に話しできるようになるのです。他の方々が正直に言った感想だとかを口に出して話しているのを聞くと、ああそんなことが負担だったと口に出して表出していいんだという学びが得られます。自分自身感じていた負担感を客観視できるようになります。

ストレスマネジメントが大事だという話ですが、それは考え方を身に着けるだけでは不十分です。そういったことを表出して、自分自身を分析して、ケアをどういう風に日常生活に取り入れるかは、体得していく側面が必要なんですね。自助グループや回復施設でミーティングが繰り返されていくと、ある程度いくと周りの方々との関係性徐々に出てくるわけです。自分の正直な気持ちを共有していくと、問題を抱えている人同士で仲間意識ができてくる。仲間の中で安心して自分自身の感情と向きあうことができてくる。それが治療的だと思います。スポンサーシップが出来ることもあります。ある程度先ゆく仲間で特定の人にスポンサーシップを申し出て、相手が承諾してくれると、個人的に教え教えられというのとは違いますが、問題について相手の方の助言をもらって進んでいく事が出来る、システムみたいなものが自助グループにはあります。問題を抱えていることが共有されている中での関係性なので、あくまでも平等な立場で一方的にならずに、周囲の人たちから意見をもらえるという、うまくシステムとして機能していると思います。

嗜癖問題が生じると周りの方に迷惑が掛かってしまうので、自分自身の問題と向き合う事が逆に難しくなってしまう事が多いんですね。他の方との関係だけに意識が向いてしまって、自分自身の問題に向き合って、自分を安定させるという事が難しくなってしまいがちです。そこを深堀りしていかないと一向に問題が解決しないまま時間ばかりが経過してしまうということになりかねない。そういう点で自助グループや回復施設には効果があるということを理解していただければと思います。

 

3 家族との関係性

ご家族が、信頼できる他者として機能する事の難しさを、まず理解していたただきたいと思います。ご本人はご本人として病気に向かい合って大変な思いをしているのですが、ご家族はご家族でいろいろな事が気になるのですよ。世間体もあるし、こうあってほしい期待との違いで、ご本人との関係が近ければ近いほど、ご家族は葛藤を抱えるわけですよね。ここでご本人が目指す方向性と、ご家族が思う方向性が食い違っている場合、お互いに信頼感を持つことが難しいと思います。じゃあ家族が理想的な関わり方をしたらどうなるのか。ご本人がありたい方向性と、ご家族がそれを尊重して後押ししていこうと一致したらどうなるか。それはそれでご本人は圧力を感じるのですよ。もちろん信頼しあってうまくいく場合もありますが、これは何か思惑があるんじゃないかと邪推して、上手くいかない事も起こりうるのです。他人であれば利害関係がうすいので、自分の事考えてくれているんだなと感じて、信頼関係を築くこともできます。家族の場合は理想的な関わり方であっても何かシックリこない、という事があります。

あくまでも本人の主体性を尊重することが大事になってくるんですが、本人が自分自身の問題を自覚して、解決に向けて何らかの方策を取ろうと考えることがなければ、周りがいかに問題点を指摘したところで、本人は変わろうとしないしうまくいかないのですね。家族の一方的な要望よりも、ギャンブルをやめてほしいとかゲームばっかりしていないでとか、それを押し付けるよりは、本人自身が何にストレスを感じていて、どういったケアを日常的にしていくのが大切なのか、そういったことを後押して行くのが望ましいのですが、なかなか難しいですよね。本人が立てているプランが、現実的で家族として受け入れ可能かどうかは分からないし、正直に説得力のある物とは限らないので。そいう中でご家族が本人に負担をかけない形で関わるというのは想像してもわかりますが難しい。この難しいという事を理解することがスタートになると思うのです。難しいから距離を取る事が大事になってきます。圧をかけない距離で適切に関わるということが、かなり至難の業である。

至難の業であることをふまえてあえて言いますと、ご家族はご家族自身の生活と向き合っていただいて、ご本人がしでかす問題とか失敗とかからいったん離れて、ご家族自身の精神的ゆとりとか平穏を目指していただくことが、大事なんじゃないかと思います。実際にトラブルが起きれば具体的対応を取らざるを得ませんし、いつ何時起こるかわかりませんが、そうじゃない時はご家族自身が日々の生活を楽しめるだけの心のゆとりをもち続けることが、すごく大事になると思います。嗜癖問題が深刻化してくると、多くのご家族は関係がズタズタに本当に酷くなってしまうのですが。ご本人には今嗜癖症状が落ち着いているかどうかはわかっているんですよ、今は嫌なことも言われないし、心が安定して自分自身の問題に向き合う事ができていると、ご本人にはわかります。でもご家族はわからないですよね。家族に対して調子のいいこと言って実は陰で何かやっているんじゃないかとか、そうことをわかる術がないんですよね。本当に本人のいうとおり安定しているのか、実は嘘ついているのか、わかりようがない。そういう意味でご家族が心の安定を保つのは至難の業なのですよ。ご本人の行動を24時間監視して何もなければ安心なんて、おそらくできないし、それでは落ち着いた生活はないですよね。

本人が嗜癖行動をしてトラブルを起こすか起こさないという事よりも、それに振り回されないで自分自身の生活を楽しめるだけの心のゆとりを持っていただくのが理想的、という話しであります。そんなこと出来ないとおっしゃる方もおられると思いますが、これを目指す方向性とわかったうえで、ご家族自身の心の平和を保ちつつ嗜癖問題への解決策を考えていただくと、いいんじゃないかと思います。

 

4 経済的問題への対応

なかなか平安でいられない問題として経済的問題があります。ギャンブルでは特にお金の問題、お酒でも薬物でも起こりますが、嗜癖行動に伴う金銭的問題は、この問題に詳しい専門家に相談していただくのが望ましいと思います。医者はお金の専門家ではないので、金銭的な問題にはあまり知識がありません。医者の私が安心してくださいと言っても説得力がありません。この問題に詳しい弁護士さんとか司法書士の先生とかに相談すると、こうすれば大丈夫ですという説得力のある回答が得られます。ただここで気を付けておきたいのは、嗜癖問題に詳しい専門家ではないと、ギャンブル依存とかで借金を繰り返す方は、ある種の弁護士や司法書士の方には稼ぎ所になってしまうんですね。またやられたんですね、毎度ありがとうございます、みたいな感じで、そこにお金を落していくだけになってしまっては、ご本人にとってもご家族にとっても何の解決にもなりません。債務整理を繰り返すだけでは問題解決にはなりませんで、本人の特性であるとか家族の状況とか、様々な要因を総合的に解釈して、こうしていく事が望ましいという解決策をちゃんと提示してくださる専門家に相談なさるのがいいと思います。

借金の返済については、私たちは借りたお金は返さなきゃいけないという風に習ってきたのですが。返済よりも優先すべきことは何かですが、理解していただきたいのは、借りたお金は返さなくてもいいのですよ。借りたお金を返せなくなってしまいましたということを、しかるべき場所でしかるべき人に謝罪とか説明できればよいのです。簡単に言えば。今の日本で借金で命を絶たなければならない状況はないはずです。ですがご家族の方が怖くなってしまって、不安を膨らませてついつい返済を肩代わりしてしまったりすると、それがご本人の症状を悪化させてしまう事になりかねないということを、理解していただければと思います。だいたいギャンブルとか嗜癖問題を抱えた方は、自分の借金がなくなってしまうと気が大きくなって、ちょっとくらいならまたやってもいいかなと思ってしまう事が多いのです。逆に借金の返済額があまり大きすぎると、バカバカしくなって逆にストレスでギャンブルやりたくなるらしいですね。どれくらいの返済額でどういった返済プランだと本人にとって負担にならず、でも自分自身が問題あるんだという事を理解して返済を続けられるかを、考える必要があります。人によっては借金を抱えている事が不安で、精神的に不安定になり回復の道が遠のくという方もおられます。こういう場合は原則を無視して返済から始めるという事もあります。こういうことも加味して考えて下さる専門家の方でないと難しいと思います。ぜひ嗜癖問題に理解のある専門家に相談する事をお勧めします。

支援の在り方は人によって多様です。これはという特定の形はありません。金銭管理をどういう形でするのが望ましいかは人によって違います。ある種の人たちは月払いでもらっていた給料を週払いや日払いでもらうことにした、それだけでギャンブルの問題が落ち着いてしまった人もいるのですね。もらったお金をギャンブルに使うこともあるのですが、月のお金を丸々ギャンブルに費やすことがなくなると、それだけで生活トラブルがなくなるという方。逆に事細かに金銭管理をされることがストレスになって悪化してしまう方。ケースバイケースでやっていく必要があります。

 

5 医療の役割

最後に医療の役割ですけれども、実は基本的にあまりないですね。日常生活の見直しが必要っていうことですから、最初の話のように、医者から説教されたから私が変わったわけではないんですね。自分で何とかしないといけないと思うからいろいろな工夫が生まれたわけで。そこで大事なのは当事者活動で、家族会の必要も理解していただければと思います。ただ都市部ではない自助グループや施設のない地方では、医療機関がグループセラピーの場所を提供せざるを得ない場合もあるんですね。昨今厚生労働省でも、病院でのグループミーティングに対する参加をすすめています。私のクリニックではそういうことは特にしていないですね。自助グループや回復施設が多くありますので、必要はないと思っています。ただ施設利用にあたって、診断書とか自立支援医療の診断書がありますと、国の補助をもらえるシステムもありますので、そういう書類を出すことができます。また利用者さんが障がい者枠で働く時に使う、精神障害者手帳の診断書を作成したりということがあります。あとは利用者さんに併存する精神疾患があったりする場合、統合失調症、うつ病、不安障害とかですが、それに対する治療を提供することもあります。あくまでも当事者活動で回復していくのが基本原則なんですけど、そういった資源がない場合は、病院やクリニックが支援の中核として機能する場合もあるという事です。ご清聴ありがとうございました。

文責:伊藤