<10月家族会報告>

30年10月27日(土)午後1時半~5時 15名参加(10家族) 初参加1名(1家族)

講師:相模原ダルクプログラムディレクター・Sさん

司会:今日は立川保護観察所のお二人が参加されています。Sさんはこの家族会では5回目の講演になります。今日は後半に質疑応答の時間を多めにもちます。いろいろ質問して下さい。

田中代表:相模湖湖畔でダルクを始めてから、今月で丸5年になりました。家族会も3年半です。現在入所者は35人位ですが季節の変り目で相談が多くあります。ネットで依存症関連書を調べると、200冊位出ます。依存症の幅も広がってオーダーメイドのプログラムが必要になってきました。しかし基本をしっかり知る必要があります。対応策を学ぶためには絶対必要です。なお高澤施設長が10月半ばに骨折で入院しました。1か月半から2ヶ月くらい治療に専念してもらうことにしています。高澤の面談ができませんが、ご了承下さい。

S:今まではクラフトを中心にしてきましたが、今日は病気について改めて基本を学びたいと思います。依存症は病気だってわかってるわよ、と思うかもしれません。気が付いた時には手に負えないようになっているもので、何処から病気かがわかりにくいです。病気と本人を切り離して考えるのも難しいですよね。道徳や意志の問題ではない、病気です。治療法もあります。それがわかってくると、家族も少しは楽になる、回復の希望が見えてくると思います。

進行のプロセスを三つの段階に分けて説明します。第一段階は「内面の変化が起こる」。内面なので周りの人にはわかりません。第二段階は「ライフスタイルに変化が起きる」本人の行動にその変化が変わってきます。周りがおかしいぞと思い始めます。第三段階は「人生が崩壊を始める」身体的にもどうにもならなくなり精神的にもおいつめられるので、いわゆる底つきと言われる状態になります。

第一段階。依存行為なり対象物質を経験するところから始まります。お酒やパチンコなどは殆どの人が体験することですが、依存症になる体質の方は、それを衝撃的な経験として焼き付けられるのです。高揚感、安堵感、コントロール感や全能感。自分の存在価値が高まったような大きな経験です。嫌なことが忘れられることもあります。人前で話せるようになったり、友達ができたり、そういうことでその依存物質(行為)に信頼してしまいます。普通の人が人間関係の中で感じる心温まる経験や、コツコツ努力して優勝するような達成感を、依存物質(行為)により“(達成感や満足感を)得た”と錯覚してとらえてしまいます。この錯覚が無意識のうちに本人の心に根をはっていきます。

第一段階の特徴は、依存対象物質や行為により、本人の中にアディクション人格が現れることです。本人の中に二つの自分がいるようになります。アディクション人格は、巧妙で不可解で協力です。この二つの人格の衝突が内面で繰り返されるのが第一段階です。本人は、依存対象物質や行為をすることで、その後、そわそわする、イライラする、という感情が出て来ますが本来の自分が感じている羞恥心、罪悪感によるものです。本来のノーマルな人格が、「こんなことは、良くないよな」と思っているからです。依存症になる方は道徳心がないのではなく、強いからこそ、それに反する行動をしている自分に対して葛藤が大きいのです。羞恥心を抱き、後悔し、反省もしているのです。しかし、アディクション人格は非常に強いので「そんなんことはない、大丈夫、みんな、それくらいやっているさ」と、その行為を正当化しようとするのです。それが否認の始まりです。この段階では、まだ本人の内面で二つの人格の闘いが繰り返されているだけなので、外に行動としては目立って現れてこないのですが、本人なかでは、何かソワソワしている状態です。二つの人格が衝突し、本来の人格が戦えば戦うほど負けていくので、自信を失っていきます。―ここで抵抗せず降伏して現実を認めることが、できれば、回復が始まるのですが…この段階で、気づいて自ら抜け出そうと思うことはほとんどないと思います。

また、感情の変換作用が脳の中で起こります。イライラとか不安とかの感情を、アディクション人格が「飲みたい、使いたい…」に変換してしまうのです。嬉しい気分も怒りの気分も「飲みたい、使いたい…」という欲求にすり替えてしまいます。「飲めば大丈夫だよ」 と言う声におかしいと思いながらも、「誰でも、会社で嫌なことがあれば飲んで憂さ晴らししているし」「ちょっとくらい飲んだって、明日からやめればいいんだし…」と、自己正当化し、都合の悪いことに関しては、問題を隠したり、言い訳したり、嘘をつき、徐々に周りの人から距離を取り、自己防衛を深めていきます。このような否認の壁で自分を囲い、守り、本人の心の中は、アディクション人格との二人きりになり、外部との接触を失っていきます。

本人は、依存行為や対象物質から得られる快感のほうに目がいって、否定的な面に目が向かず、依存行為や依存対象物質は良いものと感じているのが第一段階です。

第二段階は、ライフスタイルに変化が現れてきます。依存が行動に現れ始め、アディクション行為がコントロールできなくなっていることを示す問題が頻繁に起こるようになり、周りの人も、「何か、おかしい」と気付き始めます。本人は、自分の不適切な行動が苦痛を引き起こしている事実を否認しなければならなくなります。その結果「人を責める」「引きこもる」「嘘つく」などの自己防衛がますます強くなります。依存症の進行とともに苦痛はドンドン増していき、アディクションへのニーズを呼び起こし、対象となる物質や行動への執着と強迫観念が強くなり、内面のアディクション人格がドンドンコントロールを増していきます。そして、自分の身に起きていることがアディクションのせいだと認めると、アディクション行為を止めなければならないので、自分を哀れに思い、被害者と思い、責めることのできる相手を探し、納得いかない状況を人のせいにして攻撃したりします。こうして人間関係のトラブルが起きるようにもなります。

周りからすると、「何かおかしい」と思うようなことが度々起こるようになるので、そのような状況を周りの人たちは、自分自身に納得させるために本人に対し、「責任感がない」、「付き合っている友達が悪いから」、「意志が弱いんだ」「心が病んでいるんだ」、といった悪いレッテルを貼っていくようになります。本人はレッテルを貼られるたことで、そのようにふるまってもいいんだと自由を感じ、周りもその状況に慣れて、本人と距離を置くようになります。ところが、時々ノーマルな人格がひょっこり出て、しおらしく謝ってみたり、もうしないと約束したり、すると周りの人たちは、距離を置いていたうしろめたさを感じ、手を差し伸べます。でもアディクション人格が出てきて、すぐに裏切られてしまう。周りの人たちが本人に振り回されます。本人だけでなく周囲も否認の壁に囲まれていくようになります。

ノーマルな本来の人格はどんどん小さくなり、アディクション人格の方が猛威を振るっていくようになります。また、この頃になると、対象物質や行為に対し「耐性」がついてくるので、今まで以上に多くの量多くの回数を使わないと、依然と同じ快感が得られず、本人はうっすら恐怖を感じ始めます。

 

第三段階は、進行の最終段階です。止まらないアディクション行為が引き起こすストレスのために、身体的、感情的、情緒的にその人の人生が崩壊し始めます。ここまでくると、アディクション行為による快感はもう得られなくなってきます。でも、型にはまった生活スタイル、行動が、唯一安心感を与えてくれるので、アディクション行為を手放せずにしがみついている。過去からの引きずっている解決されていない憎しみとか不安とか悲しみが、アディクション行為の口実になり、それらの問題が何かのきっかけで爆発して、急に怒りだしたり泣き出したり、感情が極度に不安定になります。人を操り、自分のニーズを満たしてきたが、自分に自信がなくなり、それもできなくなる。まともに会話もできなくなります。本来のノーマルな人格は、孤独に耐えられなくなり、子供じみた行動がでて、家族にどこに行くのとしつこく聞いたり、彼氏彼女から離れなくなったりします。心臓病や、肝機能障害など身体的な健康も壊します。社会の許容範囲を超えた行動で、法的問題を起こすこともあります。ここまでくると、自分から依存症スパイラルから抜け出すことは難しい。誰かが介入して手を引いてあげる必要があります。回復できる可能性は、本人の否認の壁がほころびを見せたときに生まれます。例えば、自分の力ではどうにもならないと、病院や施設に相談したり、家族や友人が介入したことがきっかけで起こります。

回復の第一歩は自分をだまさず真実を見ること。本人も周囲も現実が全然見えてないので、一番大事なことは、正直になることです。自助グループでは「依存症の〇〇です」と自己紹介します。それが自分であり、自分がアディクションに冒されていることを正直に認めることで、本来の自己を受け入れ、グループの仲間と健康的な関係を持てるようになるのです。グループに参加し続けることで、自分の心の状態をモニターでき、仲間と分かち合うことで、お互いの内面のアディクションぃクション人格を監視することができます。仲間がそういう行動は危ないよとか注意してくれます。

止めるということに関してですが、難しいのは、薬物やアルコールは一切やめることができますが、拒食過食とか、セックス、浪費や買い物、仕事とかは完全にやめる事が難しいです。その辺は専門のカウンセラーとか長いソーバーのある仲間などと、節制の現実的な計画をたてて、こまめに行動と感情をチェックし、健全な生活をモニタリングしながら止めて行く事が大切です。

外部とのつながりを取り戻すためには、自助グループの中で正直になり、人を信頼することを学んでいくことが大切です。ミーティングに参加し続ける事が必要です。生活スタイルを変えないと回復は難しいです。同じ生活を続け、依存症だけを止めることはまずできません。ダルクのように同じ目的を持つ仲間と共同生活をして、一緒に取り組んでいく環境は、続けやすいと思います。仲間とともに回復に取り組んでいくことで、回復していきます。ハイヤーパワーといいますが、自分を越えた大きな力を信じ、同じ依存症の仲間と関係をもつことから始まり、徐々に家族や友人との人間関係も回復していきます。

アディクション人格に乗っ取られた人は、身なりも変わり、無責任・身勝手になったり、怒りっぽく暴言を吐いたり、あるいは引きこもって部屋から出てこないこともあります。親にすればこんな子じゃなかったのにと思うと思います。それが回復していくと、依存症によって変えられた様々なものが一つ一つ取り除かれて行きます。そして本来の本人が出て来ます。新しい人生をしっかり歩む事ができるようになります。家族は、本人の回復を信じ、忍耐強く見守っていく必要があります。やめるのは始まりにすぎない。自分を立て直す作業が必要です。長くかかりますので、家族の方は見守って下さい。

質疑応答

Q ギャンブル依存らしい。発達障害も言われている。その関係が良く理解できない。

A 最近併発がよくいわれますが、よくわかっていません。発達障害の方すべてが依存症になるわけでもないです。ギャンブル依存症であれば、依存症の治療をまず行う必要があります。発達障害も併存しているということあれば、依存症の治療を進めていく際に、その人の障害特性に配慮したかかわり方や工夫は必要になると思います。

Q 回復して働き出した。大丈夫とは思うけど、これだけはやってはいけないということは?

A 疑いの目で見ること、それを口に出すことです。本人の行動が気になった時に、「また・・・」「いつも…」「前から、○○だ。」は禁句です。そのようなことを言われると、本人は、せっかく頑張ってきたのに…(信じてもらえない)と、また飲みたくなったり、使いたくなったりするものです。

Q アルコール依存症と糖尿病とを併発。依存症専門病院から断わられた。糖尿病では命を落とす危険がある。どちらの治療を優先するべきか?

A 本人は、自分の状況が全く分かっていません。まずは、内科に入院して糖尿病の治療を受け、そこで相談して、専門病院に転院するケースもあります。

文責:伊藤